世界的に新型コロナ・ウイルスの感染が拡大する中、世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事は3月31日、オンラインでのパネル・ディスカッションを開催し、タイ、スイス、韓国、パリ、シエラレオネ、米国から各キリスト教団体の代表が参加した。
これから状況がさらに悪化する可能性も考慮すべき事態にあって、世界中の教会がオンラインのツールなどで情報を共有し、各地域での働きに従事するため、クリスチャン同士の結束を強める必要性が繰り返し確認された。
世界保健機関(WHO)の担当者サラ・ヘス氏からは、世界各国の健康被害や経済的影響の報告にあわせて、精神的な弱さを抱える人や家庭内暴力の被害者に関する報告がなされた。人との間に適切な距離を取ること、各家庭で自らを隔離することが最重要視される中で、多くの弊害が特に社会的弱者の間に起きているという。
参加者たちは、各地域や各団体のそれぞれの取り組みを紹介し、提言を行った。過去にエボラ熱による被害を経験しているシエラレオネでは、イスラム教徒とキリスト教徒が協働していること、感染拡大を食い止める働きや、地域の病人看護、亡くなった人の埋葬などに取り組んでいることを、シエラレオネ教会連合のエブン・ジェームズ代表が語った。
「信仰と科学の関係性について理解の整理がされていない教派や牧師が韓国の教会には存在する」と韓国長老教会のペ・ヒュンジュ牧師は語り、教会が正しい情報に開かれる重要性、地域への奉仕を通して人々の信頼を得ることの必要性を語った。
ジョージタウン大学のキャサリン・マーシャル教授の報告によると、苦境にあって人々が協力し合うことの大切さを再認識し、手を取り合おうとする動きがある一方で、米国内には恐怖感や不信感が広がり、銃の購入量も増加して、暴動の動きもあるという。
トヴェイト総幹事は、教会の預言者的役割である「真実を語ること」や、具体的なかたちでの地域牧会を行う必要性について語りつつ、「この苦しい状況の中で教会は、行政や諸団体とも協力しつつ、支援が足りていない人々を支える使命を持っているのではないか」と語った。
3月26日に出されたWCCの声明では、教会がクラスター(感染者の集団)にならないようにと、次のように呼びかけている。
「その愛ゆえに、礼拝と交わりが、恵みの手段ではなくウイルスの感染源になってしまう危険を回避するために、今この感染症流行のただ中で必要とされることを念頭においた集会の形を採(と)ることが重要かつ喫緊の課題です」。「教会や公共サービスの場が決してウイルス感染の中心地になることがないよう十分に注意しながら、神の無条件の愛を具現化してゆこうではありませんか」
それだけでなく、皆が閉じこもっているこの時こそ、教会が積極的に「社会における自らの役割を見つめ直す時」だとも述べている。
「今こそ、貧しい人々、病んでいる人々、片隅に追いやられた人々、そして高齢者など新型コロナ・ウイルスによって最も危険にさらされている人々に仕えたり、何かを提供したり、あるいは気配りしたりする中で、世界中の教会が、社会における自らの役割を見つめ直す時です」。「公の礼拝に直接に集まらなくても、わたしたちは神と隣人への愛を示すことができるのです」。「苦しみと悲劇の知らせばかりが目につきますが、その一方で、素朴な親切、献身的な愛、連帯、そして創造力に富むわくわくするような方法での希望と平和の共有にまつわるニュースも決して少なくありません」
日本のキリスト教会やクリスチャンも、今こそ社会に対して「地の塩、世の光」として証しをすべきではないだろうか。
「WCCおよび各地域エキュメニカル組織による共同声明」の全文は以下のとおり。
「今こそ、キリスト教の牧会的、預言者的、実践的な使命を果たそう」
わたしたちの主イエス・キリストの父である神、あらゆる苦難に際してわたしたちを慰めてくださり、そのことによってわたしたちを、神から受けたその慰めをもってあらゆる苦難の中にある人々を慰める者としてくださる神がほめたたえられますように(Ⅱコリント1:3,4)。
世界各地域のエキュメニカル組織と世界教会協議会(WCC)を代表し、新型コロナ・ウイルス(COVID-19)による困難に見舞われている、全世界の、主にある共同体に連帯を表明します。
わたしたちは、いかなる所においても、人々がこの状況に対して真摯(しんし)に向き合い、どのような形であれ、いのちを守るために協働することを最優先するよう求めます。そして今こそ、神が愛をもってお創(つく)りになったいのちを守るために、わたしたちが、言葉と分かち合いと行動によって、また、為(な)しえないことにおいてさえも、互いに心からつながり合うべき時です。
しかしまさにその愛ゆえに、礼拝と交わりが、恵みの手段ではなくウイルスの感染源になってしまう危険を回避するために、今この感染症流行のただ中で必要とされることを念頭においた集会の形を採(と)ることが重要かつ喫緊の課題です。
いのちの神に対するわたしたちの信仰は、このウイルスを伝染させないためのあらゆる手段をとることによっていのちを守るよう、わたしたちを駆り立てています。安全かつ実際的な方法でいのちを守り、苦痛を和(やわ)らげ、そして教会や公共サービスの場が決してウイルス感染の中心地になることがないよう十分に注意しながら、神の無条件の愛を具現化してゆこうではありませんか。
身体的な距離を取ることは、霊的に孤立することを意味しません。今こそ、貧しい人々、病んでいる人々、片隅に追いやられた人々、そして高齢者など新型コロナ・ウイルスによって最も危険にさらされている人々に仕えたり、何かを提供したり、あるいは気配りしたりする中で、世界中の教会が、社会における自らの役割を見つめ直す時です。
最近、世界の多くの地域では外出さえできなくなっています。しかし、たとえわたしたちが家に閉じこもることになっても、キリストのひとつのからだなる教会に結ばれる洗礼のゆえに、互いの間の深い霊的な連帯を経験することができます。家で祈ることができます。神に感謝をささげ、力や癒しや勇気を求めて祈ることもできます。さらに、公の礼拝に直接に集まらなくても、わたしたちは神と隣人への愛を示すことができるのです。多くの教会は、礼拝をオンライン中継したり動画で共有したりしています。電話を使って教会員と交信し、牧会的配慮を続けている牧師たちもいます。
新型コロナ・ウイルスの流行は、地球上のあらゆる地域に拡大しました。ウイルスそのものに対してもキリスト者としてどう応答すべきか、ということに関しても、恐怖やパニック、痛みや苦しみ、疑いや誤った情報があります。それでもなお、ひとつの信仰に結ばれたグローバルな共同体として確かめたいと思います。この、わたしたちの弱さの真っただ中で、わたしたちは神を信頼します。神こそがわたしたちの希望なのです。
苦しみと悲劇の知らせばかりが目につきますが、その一方で、素朴な親切、献身的な愛、連帯、そして創造力に富むわくわくするような方法での希望と平和の共有にまつわるニュースも決して少なくありません。
レントにおけるわたしたちの巡礼の旅は、苦労と困難と誘惑の荒れ野を通って、死から復活へ、神と共にある新しいいのちへと至ります。この荒れ野は、新型コロナ・ウイルスによって一層(いっそう)わたしたちに対して厳しく、恐ろしいものとなりました。しかしわたしたちは、心を合わせて連帯し、嘆く者と共に嘆き、不安を抱えた人々と平安を分かち合い、信仰における連帯を通して希望を取り戻すよう招かれています。
パニックになって生活必需品の買い占めに走ってしまうと、わたしたちの連帯は崩壊し、不安が増大します。もしわたしたちがこのようなことをすれば、この時に、神の道具であることなどできないでしょう。
国家や地域社会や宗教指導者による、責任あるリーダーシップが必要とされています。あらゆるレベルの行政的組織は、人々が、正しく、時宜にかなう情報が得られることを保証しなければなりません。また、生計の行き詰まりや失職に対処しなければなりません。とりわけ、清浄な水や消毒剤や石鹸、安全な居場所、最も弱い人々のための温かいケアが得られるようにしなければなりません。世界を見渡すならば、これらは、実に多くの人々にとって未(いま)だに入手困難なものなのです。今こそ、わたしたちは、共通善とは何であるか、善き政治とは何か、そして、各自の地域や共同体の伝統に根ざす倫理について熟考すべきです。
この深刻な危機にあって、世界中のリーダーシップをとる人々や政府・行政機関が、貧しい人々に対して、また、わたしたちの間にいる周縁に追いやられた人々や難民に対して優先的な関心を向けることができるよう切に祈ります。
また、ホームレス、収監されている人々、高齢者、そして社会的に孤立している人々のニーズにより大きな注意を払う必要性を、宗教指導者として特に強調したいと思います。わたしたちはまた、虐待や暴力を受けていて家に居ることが安全ではない人々、特に女性や子どもたちが、ストレスの増大の中でさらなる虐待や暴力にさらされる可能性について深く懸念しています。
新型コロナ・ウイルスに罹患(りかん)している人々とその家族のために、また、患者の治療と社会の防衛のために、危険に身をさらしながら働いてくれている医療従事者のために、引き続き祈りましょう。また、公衆衛生に関わる働き手の皆さんのためにも祈りましょう。神の助けとわたしたちの協力によってウイルスの拡大を食い止め、社会と経済と環境を、最悪の結果から守ることができるように。
神の愛はあらゆるものを包んでいます。いのちの神は、苦難の中にあってもなお、わたしたちと共にいます。
2020年3月26日
Rev. Dr Olav Fykse Tveit, 世界教会協議会(WCC)総幹事
Dr Souraya Bechealany, 中東教会協議会(MECC)総幹事
Rev. James Bhagwan, 太平洋教会協議会(PCC)総幹事
Dr Mathews George Chunakara, アジアキリスト教協議会(CCA)総幹事
Gerard Granado, カリブ諸国教会協議会(CCC)総幹事
Rev. Dr Fidon Mwombeki, 全アフリカ教会協議会(AACC)総幹事
Pastor Peter Noteboom, カナダ教会協議会(CCC)総幹事
Dr. Jørgen Skov Sørensen, ヨーロッパ教会協議会(CEC)総幹事
Jim Winkler, 米国キリスト教会協議会(NCC-USA)総幹事(翻訳:関西学院大学教員 村瀬義史)