「カラヴァッジョ《キリストの埋葬》展」来春開催に決定 コロナで延期されていたバチカンからの贈り物

カラヴァッジョ《キリストの埋葬》展」(国立新美術館)が2021年3月24日~5月10日に開催されることが決定した。2019年に来日したローマ教皇からの、日本への贈り物として実現される展覧会だ。

目玉は、カラヴァッジョの最高傑作の一つとされる「キリストの埋葬」で、約30年ぶりに来日する。画家として成功を収めたカラヴァッジョ成熟期の代表作だ。ローマに建てられたサンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ教会(キエーザ・ヌオーヴァ)の礼拝堂に置かれる祭壇画として、1603~04年に描かれた。現在、その礼拝堂にあるのは複製で、オリジナルはバチカン美術館が所蔵している。

カラヴァッジョ「キリストの埋葬」

「キリストの埋葬」は、死に絶えたキリストを十字架から降ろす場面が、その死を嘆き悲しむ人々とともに劇的な構図で描かれている。強い明暗によって浮かび上がるキリストの体は、ミケランジェロの彫刻「ピエタ」を思わせるように筋肉質で、その手足が太いのも、イエスが大工という労働者だったことを物語り、静脈が浮き出ているところまで写実的に描写されている。

二人の男がキリストの体を抱えているが、上半身を支える左側の男は、赤いマントをはおって、まだ若いことから福音記者ヨハネであることが分かる。もう一人はニコデモ(ミケランジェロの顔をした)で、キリストの両膝を抱えている。

そして3人の女性がいるのは、次のヨハネによる福音書の記述に基づく。

イエスの十字架のそばには、その母と母の姉妹、クロパの妻マリアとマグダラのマリアとが立っていた。(19:25)

悲しみに暮れるクロパの妻マリア(右端)は、両手を挙げて天を仰ぐ。中央にいるのはマグダラのマリアで、白いハンカチで涙を拭っている。そして、母マリアは尼僧のローブを着ている。

展覧会は「キリストの埋葬」を中心に、大画面の映像やパネルによって作品への理解を深められるように構成されている。また同時代の版画を通して、本作が描かれた歴史的背景へも迫り、カラヴァッジョの代表作を大きな視点から捉え直すことを目指しているという。

当時、宗教改革が起こってプロテスタントが誕生したのに対し、カトリック自身も改革運動を進めた。その結果としてカラヴァッジョのような革新的な表現が生まれ、それを嚆矢(こうし)として「バロック」と呼ばれる美術が成熟することになる。同時に、この改革の一環としてカトリックの宣教師たちが世界宣教を行い、日本にもザビエルによってキリスト教が伝えられ、多くのキリシタンが誕生した。本展では、同時代の日本各地の信徒集団がローマ教皇へ送った書状も展示される。

1613年の江戸幕府による禁教令以降、日本のキリシタンたちは厳しい迫害に苦しんでいた。19年、彼らのもとに教皇パウルス5世から励ましの書簡が届けられる。大いに感動した各地の信徒たちは教皇への奉答書をしたため、それらはローマに届けられた。畿内、奥羽、中国地方の内播磨、島原、長崎から送られた計5通がバチカン図書館に所蔵されており、今回の展示では、そのうちの3通を借用して展示される。400年以上を経て、初の里帰りとなる。

金泥で図柄や模様の描かれた着色紙などの贅沢(ぜいたく)な料紙を用い、そこに日本語とラテン語で、書簡への感謝や信仰を守る決意が記されている。禁教時代の日本の信徒たちの様子を伝えるとともに、日本とバチカンとの交流を伝える一級の史料だ。

この展覧会は、2019年、日本と教皇庁との交流が始まってから100年目を迎えたことを記念して、当初は今年10月21日~11月30日に開催する予定だったが、新型コロナ・ウイルス感染拡大に伴い延期となっていた。日本にローマ教皇庁使節館が設置されたのが1919年であり(両国の正式な国交は42年に結ばれた)、昨年は100周年を迎えた。先日亡くなったチェノットゥ駐日大使は、バチカンと日本の文化交流を深めるこうしたプロジェクトにも関わっていた。

会期:2021年3月24日(水)~2021年5月10日(月)
休館:毎週火曜日、ただし5月4日(火・祝)は開館
開館時間:午前10時~午後6時(当面の間、夜間開館は行わない)入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室2E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
主催:国立新美術館、バチカン美術館、角川文化振興財団、朝日新聞社、TBSグロウディア
後援:教皇庁文化評議会、カトリック中央協議会、イタリア大使館、イタリア文化会館、BS-TBS
協賛:NTTデータ、凸版印刷、みずほ銀行、KADOKAWA
特別協力:国立西洋美術館
令和2年度日本博イノベーション型プロジェクト
助成:文化庁/独立行政法人日本芸術文化振興会
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

雑賀 信行

雑賀 信行

カトリック八王子教会(東京都八王子市)会員。日本同盟基督教団・西大寺キリスト教会(岡山市)で受洗。1965年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。90年代、いのちのことば社で「いのちのことば」「百万人の福音」の編集責任者を務め、新教出版社を経て、雜賀編集工房として独立。

この記事もおすすめ