教文館・ナルニア国が新装開店 豊かな本との出会いの場 SNSも積極的に活用

1885年に創業した銀座の老舗書店・教文館で、長く子どもたちに愛されてきた「子どもの本のみせナルニア国」が6階から9階に店舗を移し、より選書に磨きをかけた専門店として2月にリニューアルオープンした。

ロングセラーを中心とした児童書の店を8階に開設したのは1999年。2002年には6階に、過去1年間で出版された子どもの本が一覧できる「子どもの本新刊コーナー」ができ、2004年に二つのフロアを合わせて、6階に約1万5000冊を取り揃えた子どもの本の専門店をオープンした。店内のギャラリースペースでは四季折々のテーマに沿った原画展や、毎月第二・第四土曜日のおはなし会、第三土曜日にはブックトークトークの会など、多彩なイベントが催されてきた。

開店から約20年――。長引く出版不況に加え、コロナ禍による打撃を受けながらも、約1カ月の改装期間を経て新たな装いで営業を再開した「ナルニア国」を訪ねた。

物語の世界へ案内してくれる入口の街灯も健在

平和願い「今こそ手に取ってほしい」本
「ナルニア国憲章」は故・松岡享子さんが考案

銀座の人通りが激減した緊急事態宣言下では、臨時休業も余儀なくされ、定例のおはなし会は長らく中止が続いてきた。しかし、2月の新装開店以降、オープンを心待ちにしていた親子連れなど、客足が途絶えることはない。2月下旬には、東京都書店商業組合が始めたYouTubeチャンネル「東京の本屋さん~街に本屋があるということ~」でも紹介された。

外光も採り入れた明るい店内は、6階から規模が小さくなったとはいうものの、窮屈さを感じさせない。刊行後1年分の新刊を網羅した「こどもの本 この1年」は、最新2カ月の本に絞られたが、スタッフが日々の新刊からセレクトした「きになる新刊」のコーナーは拡充。店長の川辺陽子さん=写真下=は、「質の高い子どもの本を取り扱うというコンセプトは変わりません。本との豊かな出会いの場となることを願っています」と話す。

「ナルニア国」は積極的に情報発信に取り組み、特に若者を中心に使用するSNSインスタグラムのアカウントは、他のキリスト教書店を凌駕する4500人がフォロー。ブログや紙版の広報紙「ナルニア国だより」同様、おすすめの本やオリジナルグッズ、フェアの紹介などを行っている。

折からのウクライナ侵攻を機に、ウクライナ民話の『てぶくろ』が注目を集めたが、ブログ「ナルニア国日記」では「今だからこそ手に取ってほしい本があります」として、第二次大戦から4年後の1949年にドイツで出版されたエーリヒ・ケストナーの『どうぶつ会議』を紹介。ストーリーの原案をもたらしたのは国際児童図書評議会(IBBY)の創設者イエラ・レップマンだったとの逸話から、「『この混乱した世界を正すことを、子どもたちからはじめましょう。そうすれば、子どもたちがおとなたちに、すすむべき道を示してくれるでしょう』と語ったレップマンと、戦争中はナチスから執筆を禁止されていたケストナーが未来を託す子どもたちの幸せをどれほど強く真剣に願っていたか、それがこの物語には溢(あふ)れています」とし、「一人でも多くの方が『どうぶつ会議』を手に取り、動物たちの要求に真剣に向き合ってくださることを願っています!」と呼び掛けた。

他に紹介された本は以下の通り。『なぜ戦争はよくないか』(アリス・ウォーカー文/ステファーノ・ヴィタール絵/長田弘訳/偕成社)、『へいわってどんなこと?』(浜田桂子/童心社)、『ぼくの見た戦争 2003年イラク』(高橋邦典 写真・文/ポプラ社)、『明日の平和をさがす本 戦争と平和を考える絵本からYAまで』(野上暁他 編著/岩崎書店)、『戦争をしなくてすむ世界をつくる30の方法』(平和をつくる17人/合同出版)、『せかいいちうつくしいぼくの村』(小林豊/ポプラ社)、『かあちゃんのジャガイモばたけ』(アニタ・ローベル作/まつかわまゆみ訳/評論社)。

今年1月に亡くなった児童文学作家・翻訳家の松岡享子さんは、6階に「ナルニア国」がオープンした際、ここが子どもと本との出会いの場となることを願い、「ナルニア国憲章」を考案した。それは、次のような一文で締めくくられている。「ナルニア国は 時間も国境も越えられる空間です。なぜなら ここに選ばれた本は 世界中の 小さな人たちから 年を重ねた人たちまでをひきつけ 世代を越えて長く読みつがれていくからです」

現在、新店舗内のナルニアホールでは、堀内誠一絵本原画展を開催中。昨年末に福音館書店から限定復刊となった『てんのくぎをうちにいったはりっこ』ほか、5作品の原画を展示している。会期は4月24日まで。お問い合わせは同店(Tel 03・3563・0730)まで。

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