本書は、カトリック詩人・服部剛(はっとり・ごう)さんが紡ぐ46編の詩と、神父の関谷義樹(せきや・よしき)さん撮影した雄大な自然の写真のコラボレーションによる写真詩集。カトリック系月刊誌『カトリック生活』(ドン・ボスコ社)で好評連載の見開きページ「祈りの風景」を書籍化したもの。
服部さんは、1974年東京都生まれ。98年より詩作・朗読活動を始め、2018年4月に詩集『我が家に天使がやってきた─ダウン症を持つ周とともに─』を刊行。同タイトルの講演と朗読会の活動を精力的に行なっている。日本ペンクラブ、日本文藝家協会、日本現代詩人会会員。
一方、関谷さんは、1969年神奈川県生まれ。明治大学、上智大学神学部、イスラエルの教皇庁サレジオ大学クレミザン校を卒業し、2003年司祭叙階。サレジオ修道会司祭。05年より「カトリック生活」編集長、10年よりドン・ボスコ社代表を務める。著者に『幸せになれる宗教画』(講談社)、写真集『大地の祈り』(ドン・ボスコ社)がある。
46編の詩は、「ひとりの木」「対話」「風を友に」「舟にのる」の4つのパートに分かれ、国内の四季折々の山や森などを撮影したオールカラーの写真と一緒に収められている。最初に寄せられているのは「御手の中で」。
目を閉じれば、この身は大きな掌(てのひら)の上
私はいつも、無限の日射しを浴びている大きな掌から降りて、目を開けば
二度とない「今日という日」が
扉の向こうに、待っている
そこに写し出されているのは、新潟県頸城山塊4月の火打山。春の雪山に太陽の光が反射し、服部さんの言葉がその中に溶け込んでいくようだ。服部さんの詩は、賛美、逡巡(しゅんじゅん)、熟考、気づきといった静かな黙想の言葉で紡がれており、それを関谷さんの雄大な写真が包み込む。どのページからも、生命の尊さ、生きることのすばらしさを強く感じるのは、2人のコラボレーションが神様の指揮によって、互いに愛の音を響かせ合っているからなのだろうか。
本書は、関谷さんが撮影した写真が先にあり、それを見て詩を作ったということが「あとがき」の中で紹介されている。作業をとおして関野さんは、切り取られたものに何かしらの心象風景を写しこんでいるはずの写真と、心の中に映る中から言葉を選び、紡いでいく詩作は似ていると感じたと述べ、このように続ける。
「写真と詩が組み合わされ、その二つの媒介の奥にある心の動きも交じりあって化学変化のように動き出し、これを見、また読む人の心に何かよいものが届くことを願う」(117ページ)
本書のまえがきには、4年前にカトリックの洗礼を受けた女優の秋吉久美子さんが「この本を開くあなたに」と題した散文詩を寄せている。詩をとおして服部さんと交流があったことから、今回まえがきをお願いしたという。
自然は呼びかけている。
耳を澄まそう。
写真は語りかける。
詩は沈み渡る。
至福の時間の旅人は、本を開く人だ。
こう締めくくられる秋吉さんの言葉は、本書への最高の賛辞となって、ページをめくる期待感をより一層大きなものにする。天の指揮者に導かれ、天の指揮者である神様のための演奏会。本書を開けば誰でも参加することができる。
詩:服部剛、写真:関谷義樹『天の指揮者』
2020年12月11日初版発行
ドン・ボスコ社
1200円(税別)