第二次大戦下のドイツで、ヒトラー暗殺作戦に加担したことでナチスに処刑されたディートリヒ・ボンヘッファー(1906〜1945)の生き様を描く映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』(配給:ハーク)が11月7日(金)より全国公開される。
1933年、ヒトラーがドイツで権力を掌握した際、彼が最初に掌握したのはドイツの教会だった。過激な民族主義を武器に、ルター派とカトリックの指導部を自らの世界観に同調させ、数ヶ月で、聖堂から聖書と十字架を消滅させ、その代わりに『我が闘争』と常に目立つスワスティカ(カギ十字)が置かれるようになった・・・

© 2024 Crow’s Nest Productions Limited
そのナチスと闘い続けたボンヘッファーの死から今年で80周年。平和を祈る聖職者でありながら、抵抗運動の闘士として、ヒトラー暗殺の共謀者になっていったのか? 同作では、“20世紀を代表するキリスト教神学者の一人”とも呼ばれ、母国ドイツだけでなく、日本のキリスト教界にも大きな影響力を持つボンヘッファーの知られざる人物像を浮かび上がらせていく。そこで目にするのは、政治的勇気は信仰の行為であり、悪に対して沈黙を保つことは、実は悪そのものだと決断した一人の人間の物語。
監督・脚本・製作を務めたトッド・コマーニキは、旅客機不時着水を題材にした『ハドソン川の奇跡』(2016年)や、オックスフォード英語辞典の誕生秘話を描く『博士と狂人』(2019年)など実話を得意とする名シナリオライター。同作では、勇気と正義ある行動が世界を変えることができるというストレートなテーマを根底にし、ボンヘッファーが辿(たど)った足跡に脚色を織り交ぜつつ、揺らぎない哲学や人生観を壮大かつ荘厳に描き上げた。
主人公ボンヘッファー役を熱演するのは、舞台演劇出身のドイツ人俳優ヨナス・ダスラーで、内面から湧き上がる情熱、勇気、不安などの全感情を完璧に表現している。また、牧師ニーメラー役には『イングロリアス・バスターズ』(2009年)、『SALT/ソルト』(2010年)に出演するアウグスト・ディール、義兄ハンス役をフルーラ・ボルクを務めるなど、国際的に活躍する俳優たちが脇を固める。

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ヒトラーと戦い、無辜(むこ)のユダヤ人の命を守るために自らの命を捧げたボンヘッファーは、これまでそれぞれの宗教思想によってさまざまに評価されてきた。たとえば、アメリカの右派は「テロへの戦い」において軍事攻撃を正当化することに使い、一方穏健派は、ボンヘッファーの平和主義を強調し、最終手段として力に頼ったというようにだ。しかし、同作で描かれるのは、自分の命を犠牲にすることで、別の人が自由を得られるなら、その命は価値があると考え、その決断をした人間の尊い姿だ。
コマーニキ監督は、公式ホームページにおいて次のように語っている。
「ディートリヒ・ボンヘッファーは、今もなお灯台として立ち続け、私たちに互いが必要であることを思い出させます。私たちは皆、つながり合っているのです。そして、一人の人間が苦悩する時、私たち全員がその苦悩を共有するのです」
ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師
監督・脚本・製作:トッド・コマーキニ|出演:ヨナス・ダスラー、アウグスト・ディール、デヴィット・ジョンソン、モーリッツ・ブライブトロイ
2024年|アメリカ・ベルギー・アイルランド|英語|132分|5.1chデジタル|スコープサイズ|カラー|映倫:G |字幕翻訳:大塚美佐恵|字幕監修:小川政弘
配給:ハーク|配給協力:フリック|