映画「アダムズ・アップル」(脚本と監督:アナス・トマス・イェンセン)が10月19日より公開される。2005年にデンマークで公開され、デンマーク・アカデミー(ロバート)賞で作品賞、脚本賞、特殊効果/照明賞をはじめ、各国の国際映画賞で観客賞などを受賞。日本では2017年に開催された北欧映画祭「トーキョー・ノーザンライツ・フェスティバル2017」で初めて公開され、話題を集めた。
物語は、牧師のイヴァン(マッツ・ミケルセン)とネオナチ・ギャングのアダム(ウルリッヒ・トムセン)との出会いから始まる。仮釈放中の受刑者が更正するために送られる田舎の小さな教会が舞台だ。
「教会で生活をするにあたり、目標を見つけるように」とイヴァンから言われたアダムは、(おそらく深く考えずに)教会の庭になっているリンゴで「デカいアップル・ケーキを焼く」と答える。しかし、その日からリンゴの木は鳥や虫の害に遭ったり、ケーキを焼くために欠かせないオーブンが突如壊れたりと、まるで誰かが邪魔をしているかのような出来事が次々に起こる。そのたびにイヴァンは、「悪魔が我々を試している。戦いを挑んでいるんだ」と信仰深いところを見せるのだった。
個性的な登場人物たちは、それぞれの人生の中で深い傷を負っており、どこか様子がおかしい。同居人であるカリドとグナーは、酒と暴力にまみれ、更正とは名ばかりの生活を送っている。一方、どんな災いが降りかかろうとも「神は私の味方だ」と繰り返すイヴァンは、「わたしたちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか」(ヨブ2:10)と言ったヨブそのものにも思える。ただ、些細(ささい)なことでも気にさわると「失敬な!」と言うのが口癖で、会話を中断してでも議論したがるなど、異様なほどにマイペースだ。
そして、そんな牧師の自己欺瞞(ぎまん)を暴(あば)こうとするアダムに追い詰められ、ついにイヴァンもヨブと同じようにすべてを諦(あきら)め、自身の人生を呪うようになる。果たしてイヴァンは信仰を立て直すことができるのか。そして、アダムのアップル・ケーキの運命は……。
登場人物たちが、さまざまな試練の嵐を乗り越えながら騒動を巻き起こす、ブラック・ユーモアあふれる本作品。どんなときも不平不満を口にせず、ポジティブであろうと努めるイヴァンの姿は、滑稽(こっけい)でもあり、痛々しくもある。「彼はあまりにも多くの困難を抱えていて、それに耐えるには『理由』が必要だった。だから、何か起きるたびに、『自分はいつも悪魔に試されている』と考えるようになった。イヴァンは頭の中で、必死に悪魔と戦い続けているんだ」という主治医の言葉は胸に刺さる。
「この映画の見どころは、どうしようもなく憂鬱(ゆううつ)な問題を抱えて人生の道標(みちしるべ)を見失った人々が織りなす摩訶(まか)不思議な人間模様です。また、その予測不可能なストーリーは観客を驚愕させながらも、『まさか』と思わせるラストシーンでは、胸に染み入る感動を呼び起こすことでしょう。クリスチャンの方々にもぜひご覧いただきたいです」と、配給・宣伝を行う「アダムズ・アップルLLP」の黒田顕示(くろだ・けんじ)さん。
冒頭の牧歌的なシーンからは予想できないストーリー展開に、初めから終わりまで圧倒される。クリスチャンはもちろん、そうでない人にも、ぜひ「ヨブ記」を読んでからの鑑賞をお勧めしたい。
「アダムズ・アップル」
10月19日~、新宿シネマカリテ、11月1日~、吉祥寺パルコ アップリンクほか、横浜、京都、神戸、大阪、名古屋など各地で順次公開予定。