「GPSを利用した位置情報アプリゲーム」が登場した2016年当初、教会を含む宗教施設がゲーム上の重要ポイントに自動で設定されていることをめぐって、お寺や教会をはじめとする宗教界からさまざまな反応が見られた。第三者によって「聖域」が荒らされることを危惧する否定的なものが大半を占める中、動機は何であれ少しでも接点になるのならとわずかな可能性に期待する声もあった。その後、実際にどんな影響をもたらしたかを検証することはできずにいる。
そんな中、「聖書×旅」をテーマに行われた第3回聖書エッセイコンテスト(日本聖書協会主催、本紙2月11付で既報)で、特別賞に選ばれた朝霧翼さんの作品「初めての教会訪問はGPSゲームと共に」は、「『地点』にいるモンスターと戦う」目的で教会を訪ね、給食ボランティアに参加し、礼拝にも参加するようになったという事例が実際にあったことを証明した。受賞理由には、「聖書へのアクセス方法は実に多様で、何がどう用いられるかは神のみぞ知る。そんなごく当たり前のことを改めて教えてくれた」との選評コメントが寄せられた。
エッセイの応募は初めてだったという20代の朝霧さんに、改めて話を聞いた。
エッセイの舞台となった救世軍神田小隊。「救世軍は実績もあり、安心できた」と朝霧さん
家事代行業という仕事柄、都内を移動することが多かったこともあり、日常的に位置情報を元にしたアプリゲームを遊んでいた。たまたま通りがかったスポットが教会(救世軍神田小隊)であることに気づき、掲示板にあった街頭給食のボランティア募集が目に入る。アルバイト漬けの日々で何か他のことがしたいと願っていたタイミングでもあり、夜の時間は空いていたため、さっそく帰宅して参加したい旨を連絡した。
念のため「救世軍」についても、あらかじめ検索。「活動実績もあるし、歴史も長いので安心できました。教会に行こうと思っても、どこがカルト的で怪しいのか分からないので、『通っても大丈夫な教会』のリストなどがあるとありがたいです」
皇居近辺で100人以上が並ぶ炊き出しの列を目の当たりにし、以来、教会の礼拝にもアルバイトがない日は何度か通ったという。高校時代、ホームステイ先のアメリカで教会に行ったことはあったが、国内での教会体験は初めて。その後、「見込みがあるから」と言われてもらい受けた聖書は今でも手元にある。
普段はオンラインで友人と対話型ゲーム(テーブルトークRPG)をすることが多いという朝霧さんは、自ら遊ぶためのシナリオを執筆することはあっても、作品を何らかの賞に応募することはなかった。
「受賞する自信はまったくありませんでしたが、いつもゲームシナリオを書いていたので書くことに抵抗はありませんでした。やはりゲームのシナリオばかり書いていると偏ってしまい、面白いものが書けなくなるので、違うジャンルも書いた方が絶対にいい。ゲームにつなげるために、別の創作にも挑戦したいという思いもありました」
コロナ過で帰った地元の群馬でも、近くの救世軍の教会を探して訪問した。今度は、一緒に作品を応募した友人も救世軍の教会に誘ってみたいと話す。想定外の動機で訪問する「部外者」から「聖域」を守るため、固く門を閉ざすべきか。聖書や福音への入り口は、若きゲーマーたちにも開かれている。
全受賞作と選評コメントは、日本聖書協会の特設サイト(https://bit.ly/4gqxO3x)で閲覧可能。
朝霧 翼
あさぎり・つばさ 1997年群馬県生まれ。家事代行、家庭教師などを経て就職活動中。テーブルトークRPG(ソードワールド2.5、シノビガミ、ネクロニカなど)、ファイアーエムブレムシリーズなどの情報を全年齢対象に発信中。「ソードワールド」ユーザー約150人が集うコミュニティ「星神光輝亭」の運営を行う。常時入団受付中。