中国からのクリスチャンと日本の教会 佐藤千歳 【この世界の片隅から】

2月11日付本欄で、パリの華人教会に中国出身の信者が増えている話題を遠山潔氏が取り上げ、中国の競争社会を避けてフランスに渡った人々の憩いの場となった教会を紹介した。コロナ禍を機に加速した中国の移民ブームは世界的な現象であり、フランスと同じく、日本への移民にもクリスチャンが含まれる。世界の華人教会を調査する人類学者のアルベルトゥス=トーマス・モリ氏によると、日本国内の華人教会や定期集会は、2017年の48カ所から2024年は112カ所に急増したという。「華人教会」には、中国大陸のほか、台湾や香港、東南アジア各地の華僑華人の信者が集まるが、2020年代の華人教会の急増は、中国人信者の増加によるところが大きいという。

近年の中国人移民についてジャーナリストの中島恵氏は、日本社会に対する関心が薄く、出身地や出身階層の近い中国人だけで閉鎖的なコミュニティを作る傾向を指摘している。それでは、クリスチャンの新移民たちはどのような状況にあるのだろうか。

中国南部のプロテスタント長老派教会のリーダーだった王さん(40代男性、仮名)が国外に移住したのは2023年。王さんの教会は政府非公認で、2020年前後から当局の取り締まりが厳しくなったため、中国に近く宗教活動に制限のない日本を目指して出国した。現在は関東地方に住み、インターネット販売の宅配業務で生計を立てている。

40代で習い始めた日本語の壁は厚く、非正規雇用で収入は安定しないが、休みが取れると日本の教会について調べたり、各地の教会を訪ね歩いたりしている。コロナ禍を機に、中国では教会による社会貢献活動に関心が高まっており、王さんも社会活動に取り組む日本の牧師を訪ねることもある。同じ新移民の友人から教会探しも頼まれる。信仰を理由に移住を決断した王さんたちは、「中国で通っていた教会と同じ教派の教会に行きたい」という希望が強く、華人教会で中国人同士の交流を深めるよりも、教派を同じくする現地社会の信者との礼拝を望むことが特徴といえる。

他方、新移民たちが集まる新しい華人教会も、首都圏や近畿地方を中心に増えている。筆者が訪問した都内の華人教会は、中国でもプロテスタント信者が多いことで知られる河南省出身の牧師が、2022年に設立した福音派の単立教会である。設立から3年で、中国語の日曜礼拝に60人近くが参加する教会に成長した。信者の中心は20代から40代で、留学生や子育て世代の家族が目立ち、青年部の活動や家庭生活のカウンセリングやワークショップを頻繁に開催する。中国出身者が日本社会で抱える共通の悩みを話し合ったり、新移民のネットワークを広げたりする場を提供したことが、この華人教会の急成長の背景と考えられる。

筆者の見聞は一部の事例に過ぎないが、先述のモリ氏の研究を踏まえても、中国から日本へ移住したクリスチャンは、中国社会の圧倒的な多様性を反映し、所属する教派から信仰のあり方、どのような教会活動を望むかまで、相当の多様性がある。日本語が分からなくても現地の教会に通いたい信者もいれば、華人教会で同胞とつながりながら信仰を深めたい信者もいる。

教会活動に対する長期的な統制を受けながら、さまざまな工夫と連帯で信仰をつないできた中国のクリスチャンの経験は、中国以外の信者にとっても学ぶところの多いものである。日本で活動する華人教会や中国人クリスチャンの状況は、まだ明らかにされていないところも多いが、それぞれの多様性に向き合いながら、華人クリスチャンとホスト社会である日本の教会の間につながりが築かれ、教会が憩いの場であり続けるよう願っている。

佐藤 千歳
 さとう・ちとせ 1974年千葉市生まれ。北海商科大学教授。東京大学教養学部地域文化研究学科卒、北海道新聞社勤務を経て2013年から現職。2005年から1年間、交換記者として北京の「人民日報インターネット版」に勤務。10年から3年間、同新聞社北京支局長を務めた。専門は社会学(現代中国宗教研究、メディア研究)。

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