【日本YWCA】 クリスマスメッセージ「喜びも、悲しみも分かち合う季節に」 大久保 絹(山梨英和大学宗教主事)

ローラさんのおいしい思い出

私は『楽しいクッキングブック』(私家本)を長年愛用してきました。著者の深田ローラさんは1960年に、夫の深田未来生(みきお)牧師と共に宣教師としてアメリカから京都へ派遣されました。

深田牧師夫妻とは、学生時代から親しい交わりが与えられ、いろいろな料理をごちそうになりました。このクッキングブックには私の大好物であり、ローラさんとの食卓を思い出す「豆腐入りヘルシーラザニヤ」や宣教師が日本にもたらした「パリパリラーメンサラダ」、オートミールやコーンフレークを使って作る「カウボーイクッキー」など楽しいレシピが載っています。ちなみに京都YWCAの名物「レンジャークッキー」もローラさんがもたらしたそうです。

日本で手に入りやすい食材を使うという工夫もあり、例えばラザニヤのホワイトソースは水分を切ってほぐしたお豆腐です。カロリーを気にせず食べることができて幸せです。
旬の食材を使って料理できるよう、月ごとに展開されているのも特長です。12月のページにはこうあります。

 12月はイエス様の誕生を祝うために心の準備をする時。いつも弱い立場の人たちと共に生きたイエス様の生涯を覚え、家族や友人だけでなく、共に祝い喜ぶ人たちのことを思いながら支度をします。この時全体がクリスマス。

ローラさんにとって12月24日を迎えるまでの日々が特別なのでしょう。そして大切なのは、クリスマスは、周りの人たち、とくに、さまざまな悩みや苦しみを抱えている人たちのことを考える期間だと、そっと気づかせてくれます。

未来を見つめる若者たちと共に

深田牧師夫妻が日本に来られた1960年は、戦後15年という時期でした。戦争の傷跡を日本の町のいたるところに感じただけでなく、人の心にも垣間見ることがあった、とローラさんは記しています。復興に向かっていたとはいえ、まだまだ多くの困難に人々が直面していたでしょう。家族を亡くした悲しみや寂しさ、先の見えない将来への不安を抱えていた人たちも多くいたはずです。

ローラさんによると、そのような苦難の中にあっても青年たちを中心に、人々は人生の意味や苦しみについて真剣に考えていました。人間とは何か、生きるとは何か、家族のあり方や職場での倫理、人間が支え合って生きてゆくことのできる共同体はどうしたら実現するのか、と問いながら、希望を持って前を向いていた、といいます。

ローラさん自身も京都YWCAで活躍したほか、翻訳や英語のレッスン、高校でのレクチャーや実習、カフェの運営など、さまざまな活動の中で若い人たちと出会い、おいしい料理と共にたくさんの「居場所」を提供してきました。そんなローラさんと深田牧師の教会もまた、どんな人でも歓待し、癒しと喜びと希望の光を与えてくれる、イエスの愛の実践の場でした。

居る場所がない。そこに希望の光が

クリスマスの出来事を記した聖書には、母マリアが生まれたばかりのイエスを飼い葉桶に寝かせたと書かれています。このことからはイエスは馬小屋で生まれたと想像されますが、なぜ馬小屋だったのでしょうか――。マリアは夫のヨセフと共に住民登録のためベツレヘムに向い、そこで出産の日を迎えました。しかし「宿屋には彼らの泊る場所がなかった」(ルカ2:7)のです。「彼らのいる余地がなかった」、「かれらのためには場所がなかった」と訳した聖書もあります。この状況に心が痛みます。もし宿屋の人たちが、産気づいたマリアの姿や、必死に出産の場所を求めるヨセフの姿に目を留め、気づいてくれたなら、馬小屋で生まれることはなかったかもしれません。しかし、このような他者から周辺に追いやられた状況の中、すべての人の希望の光となるイエスは生まれました。

思いや悩みを聴き合って

クリスマスは楽しい季節です。クリスマスソングが流れ、美しいツリーも見ることができます。ツリーにあかりが灯る前と後を思い浮かべてください。暗闇の中に現れた光は、私たちを楽しい気持ちにさせるばかりでなく、心を落ち着かせ、和ませてくれます。そんな心華やぐときをみんなで楽しむのは素敵なことです。それと同時に、周りにいる人たちとそれぞれの思いや気持ちを分かち合うことも大切でしょう。ローラさんが出会った60年前の青年たちとは少し異なりますが、いま私の身近にいる若い人たちも、人間とは何か、生きるとは何か、家族のあり方、学校や職場での倫理、支え合う関係性をどう築いたらよいのかと考えながら、悩みや不安を抱えているからです。

愛の神は誰ひとり見放さない

主イエスはすべての人を照らすまことの光として世に来られました。この光は、世の中を明るくするだけでなく、人間の内面も照らします。私たち一人ひとりが抱える悩み、傷、罪に光が向けられ、それらとどう向き合って歩むのか。愛の神は一人ひとりを決して見放さず、私たちと共にあって、光を与えてくださるのです。戦争、平和、暴力、不正、抑圧、差別、貧困、環境破壊など、ここに書き表せないほどの課題の中に私たちは生きています。このような一つひとつにも救いの光が灯され、解決に向かうよう願いましょう。また苦しさを抱えながらも、気づかれることがなく周辺に置かれている人たちの痛みと声を聴くことができる一人ひとりになりましょう。人が生きていくことの重荷を、生きる喜びに変えてくださるキリストを心に迎え、私たちが平和を作り出すものとして歩むことができるよう共に祈りましょう。

(甲府YWCA賛助員)

出典:公益財団法人日本YWCA機関紙『YWCA』2024年12月号より転載


YWCAは、キリスト教を基盤に、世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせ、女性の社会参画を進め、人権や健康や環境が守られる平和な世界を実現する国際NGOです。

UnsplashJessica Fadelが撮影した写真

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