ラテンアメリカの「解放の神学」の父として知られるカトリック神学者グスタボ・グティエレス氏が10月22日、ペルーの首都リマの介護施設で肺炎のため亡くなった。96歳だった。「レリジョン・ニュース・サービス」などが報じた。
グティエレス氏は1928年にペルーで生まれ、ベルギー、フランスで神学を学んだ後、1959年に司祭に叙階。ペルーに戻ってからは貧困地域の教会に赴任し、虐げられた人々と共に生活する中で、彼らの解放のための神学を模索していく。代表作『解放の神学』(1971年、原著スペイン語)は聖書的な視座から現代の経済格差や抑圧の問題を考察し、教会が地上における「神の国」の実現のために果たすべき社会的責任を強調。その後さまざまな言語に訳され世界的に読まれてきた。
経済格差の問題に正面から立ち向かったグティエレス氏の神学は、左派系の神学者たちに大きな影響を与える一方、カトリック教会内外の保守派からは激しい批判にさらされることとなる。とりわけ共産主義が教会の目の敵とされていた冷戦期においては、グティエレスの著作はマルクス主義的で反体制的なものとして危険視された。1984年には時の教皇ヨハネ・パウロ2世が、解放の神学はカトリック教会の教えに反するとして糾弾する文書を発している。その後もグティエレス氏の著作や発言はたびたびバチカンの審査の対象となった。
後年、グティエレス氏の神学はカトリック教会の中で徐々に評価されるようになっていく。特に2013年に即位した教皇フランシスコは同じラテンアメリカの出身で、貧困や抑圧の問題に強い関心を寄せ、解放の神学にも共感的な姿勢を示してきた。グティエレス氏の90歳の誕生日には教皇自ら筆をとり、教会と社会に対する彼の神学的貢献を称える内容の手紙を送っている。
日本語訳された著書に、『解放の神学』(岩波書店、1985年)のほか、『解放の地平をめざして――民衆の霊性の旅』(新教出版社、1985年)、『ヨブ記 神をめぐる論議と無垢の民の苦難』(教文館、1990年)、『神か黄金か 蘇えるラス・カサス』(岩波書店、1991年)、『いのちの神』(新教出版社、2001年)、『み言葉のわかちあい 主日の聖書黙想』(日本キリスト教団出版局、2003年)、『み国のわかちあい 主日の聖書黙想A年』(日本キリスト教団出版局、2004年)、『いのちのわかちあい 主日の聖書黙想B年』(日本キリスト教団出版局、2006年)などがある。また、プリンストン神学大学名誉教授だったリチャード・ショール氏との共著に『解放と変革の神学』(新教出版社、1979年)がある。
(翻訳協力=木村 智、エキュメニカル・ニュース・ジャパン)
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