1年前、インドネシアのジャカルタを初めて訪問した。
インドネシアでは、Uberの東南アジア版「Grab」という多機能アプリがとても役に立つ。配車サービス、食品デリバリーなど簡単に利用できるのだが、ある時ふと気になったことがあった。
Grabで飲食店のデリバリーメニューを見ていると、どうもイスラームの食基準から見ると怪しげなものや、明らかに豚が食材として使用されている食べ物がある。しかしそこには「ハラール」(イスラーム法において合法という意味)であることを示す印もなければ、食材についての簡単な説明もない。インドネシアはイスラームを国教としているわけではないが、ムスリム人口は約9割。誰もが利用するアプリで食品のハラール性が不明瞭なのは不自然に思えた。インドネシアはマレーシアと並んで「ハラール認証」分野では徹底している、と海外では評価されている。しかし国内では、どうもそうではなさそうだ。
ということである日、グランド・インドネシアというショッピングモールの飲食店エリアを散策してみた。ここには多くの日系飲食店がテナントとして入っているので、そこに注目した。調査の結果、店によって「ハラール対応」はまちまちであり、国内では意外にもハラール認証が徹底されているわけではないことを知った。
モール内の日系飲食店のハラール対応は大きく分けて、以下のように分類できた。
1.権威ある組織からのハラール認証を取得し、店頭に置いている店。Y家、M製麺、Pランチなど。
2.ハラール認証を取得していない店。これらの店のハラール対応は、さらに以下のように分類できる。
①自称「ハラール仕様」で、ハラール認証取得手続き中だと主張する店。カレーチェーンCなど。
②「No Pork No Lard」(豚とラード不使用)の看板だけで済ませている店。
③豚その他のものを扱うが、調理場や食器などは別にしているという店。
④豚その他のものを扱い、かつ調理場も食器も分けてはいないという店。豚骨ラーメンIなど。
⑤豚はないが、酒やみりんを使っている店。日本食チェーンO屋。
以上、2のカテゴリーは非ムスリムの外資系にもかかわらず、その「ハラール性」において第三者から何の監督も受けてはいないことになる。②などは一見耳あたりがよい標語だが、豚とラードはイスラームにおける食の禁忌のごく一部でしかない。
だがイスラームの規定上ではそういったグレーゾーン、場合によってはブラックゾーンの店でも、現地のムスリム客が普通に飲食をしている。知った上でそうするのは個人の自由だが、少なからぬムスリムが無知と注意不足から飲食してしまっている可能性が高い。
インドネシアは今秋から、食品・化粧品など海外からの特定分野の輸入品には、インドネシア政府が認めたハラール認証を取得したものしか国内に入れないという政策を実施する予定だ。国外と国内でのこの対応の違いに、多少のギャップを感じている。
*文章内の情報は2023年1月初旬時点のもの。
さいーど・さとう・ゆういち 福島県生まれ。イスラーム改宗後、フランス、モーリタニア、サウジアラビアなどでアラビア語・イスラーム留学。サウジアラビア・イマーム大卒。複数のモスクでイマームや信徒の教化活動を行う一方、大学機関などでアラビア語講師も務める。サウジアラビア王国ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷局クルアーン邦訳担当。一般社団法人ムスリム世界連盟日本支部文化アドバイザー。