日本におけるカルト問題を長年研究し、いくつもの著書のあるウィリアム・ウッド氏は「新使徒運動」に警鐘を鳴らしたブックレット『日本の教会に忍び寄る危険なムーブメント』(2018年刊)で、「長年のカルト研究の中で、初めて怖さを感じた。今まで見て来たグループの中で、最も危険なものだという思いさえした」と書いている。
この運動について4回にわたり書いてきたが、私はタイトル「忍び寄る新使徒運動の恐怖」に「!?」をつけてきた。それはウッド氏のブックレットを2年後の2020年に刊行された『新使徒運動はなぜ危険か』とともに熟読してもウッド氏の危機感を共有できなかったからだが、この連載を通して自分なりに研究し「!?」を取り除くことができるかどうか、見極めたいと考えてきた。
収集した文献は数十冊に及び、研究は道半ばだが「スピリチャルマッピング」(霊的地図作成)というこの運動独自の宣教戦略に問題の所在があることは見えてきた。日本においてもこの運動が起こしたと思われる事件は、この戦略にかかわるものである。最後に、この点にふれておきたい。
「新使徒運動」の指導者ピーター・ワグナーは、日本における「スピリチャルマッピング」について次のように書いている。「世界中で注意深く霊的地図が作成される必要があります。(中略)日本の滝本望(ママ、後に改名)は、日本の太陽神である天照大神の主要な五つの要塞を見つけて確認しています」(『天の女王との戦い』より)。
瀧元望とはいかなる人物なのか。著書『隔ての壁を取りのぞくために』(2011年刊)の著者紹介によれば「日本のゴスペル・バンドの草分け的存在(中略)グロリアシンガーズを結成。25年間音楽伝統に奉仕する。1991年より戦略的なとりなしの祈りのために召命を受け、日本各地のみならず、世界各国を調査し、とりなしの祈りを続けている」とある。その著書には「新使徒運動」や「スピリチャルマッピング」という言葉は一切使われていないが、ピーター・ワグナーの傍証から瀧元氏の「戦略的なとりなしの祈り」の活動が「新使徒運動」の「スピリチャルマッピング」によって動機づけられていることは間違いないだろう。
この瀧元氏の「とりなしの祈り」について、ペンテコステ派の牧師でカルトにも詳しい村上密牧師が、2016年12月のブログで以下のようなエピソードを紹介している。「ある信徒が滝本望(ママ)牧師と神社にとりなしに行った時、彼は聖書のみことばを書いた小さな紙きれを神社拝殿前の玉砂利に埋めたり、拝殿の木の隙間に入れたりした。(中略)ある霊的スポットでは、その地を清めるためにと、その場でとりなし手全員で聖餐式を行い、ブドウジュースをその所に注ぎかけた」
このエピソードから思い出されるのは2015年春から2017年にかけて近畿地方を中心とした全国地域で、相次いで寺社の国宝や重要文化財などに油などの液体が撒かれ汚損された寺社連続油被害事件だろう。この間に私が行った関係者への調査によっても、この事件の犯人として逮捕された韓国系日本人男性が「新使徒運動」と関わりのあることを突き止めることができた。
「新使徒運動」は、「使徒」と「預言者」のリーダーシップのもとに世界的ネットワークを形成し、「預言カフェ」「トランプカルト」「とりなしの祈りの活動」などさまざまな形で現れ、時に「油まき事件」など反社会的な活動にも関与するという点で、警戒し続けなければならない運動であることは間違いないと思われる。
川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。