日本学術会議への人事介入をめぐり、日本宗教学会(鶴岡賀雄会長)理事会、日本基督教団北海教区(原和人総会議長)、日本ナザレン教団(江上環理事長)、平和をつくり出す宗教者ネットを中心とする宗教者が相次いで声明を発表した。
日本宗教学会は10月7日の声明で、「任命されなかった方々のうち第一部哲学委員会に属する予定だった1名は、本学会の役員を長く務め、学術上の業績、識見からして、日本の哲学研究、宗教研究を代表するにふさわしい方」として同学会常務理事の芦名定道氏(京都大学大学院教授)が任命から外されたことに言及。「正当な理由なく任命されなかったことは了承しがたく、日本学術会議の独立性を冒し、設立理念に反し、延いては日本における学問の自由と自律を脅かすことにつながりかねない」との危惧を示した。
日本基督教団北海教区は10月8日の声明で、拒否された6人に「キリスト教学者で、著名なパウル・ティリッヒ研究者の芦名定
日本ナザレン教団は10月9日の声明で、「キリスト者として、かつて日本でキリスト教信仰ゆえに弾圧された、その歴史と先人の体験を思い起こし、キリスト教信仰が長い歴史を通して生み出した、人間の尊厳、信教の自由、そして民主的社会を、守り支える意志によって、この度の措置に抗議」し、任命拒否の撤回を求めた。
平和をつくり出す宗教者ネット(宗教者ネット)は10月13日、キリスト教、仏教各派の28人による連名で共同声明を発表。声明は、「学問の自由」の侵害を許すことが「信教の自由」の侵害にも及ぶとの危機感を表明し、「『学問の自由』とは、権力に媚びることなく、批判的精神を尊び自らの過ちを誠実にただしつつ、真理を探究する道」「この自由が専制的な力によってゆがめられるとき、民主主義の根幹が崩れ、社会から批判的精神が失われ、全体主義がはびこり、最後には社会と国家の危機を乗り越える道をも見失う結果となるという危機感を、わたしたち宗教者は抱き、警告せずにおれません」と警鐘を鳴らしている。
全文は以下の通り。
日本学術会議新規会員の任命拒否問題に関する声明
日本学術会議が新たに会員に推薦した方々のうち、人文社会科学系の研究者6名が内閣総理大臣によって任命されないという異例の事態が発生しています。任命されなかった方々のうち第一部哲学委員会に属する予定だった1名は、本学会の役員を長く務め、学術上の業績、識見からして、日本の哲学研究、宗教研究を代表するにふさわしい方です。
この方を含め、それぞれの分野での学術的な評価を経て推薦された6名の研究者が正当な理由なく任命されなかったことは了承しがたく、日本学術会議の独立性を冒し、設立理念に反し、延いては日本における学問の自由と自律を脅かすことにつながりかねないと危惧します。
日本学術会議の要望に沿って、6名の研究者がすみやかに会員に任命されることを強く要望いたします。
2020年10月7日
日本宗教学会理事会
菅政権の学術会議人事介入に抗議し、新会員即刻任命を要求する声
日本学術会議が推薦した新会員6人の任命を、菅義偉首相が拒否し
日本学術会議は、日本の科学者を内外に代表する組織であり、政府
今回の人事介入によって、菅政権が森友・加計問題に象徴される「
菅首相が任命を拒否した6人の新会員は、安保法制や「共謀罪」創
学術会議は「公共政策と社会制度の在り方に関する社会の選択に寄
菅政権に対して学術会議新会員6人の即刻任命と、人事介入へ謝罪
2020年10月8日
日本キリスト教団 北海教区 総会議長
原 和人
日本学術会議への人事介入に対する反対声明
日本学術会議が推薦した次期会員のうち、6名が内閣総理大臣により任命を拒否されたことが報道されました。
この人事介入は、憲法23条に保障された学問の自由、すなわち、「個人が国家から介入を受けずに学問ができること」と、「公私を問わず研究職や学術機関が、政治的な介入を受けず自律すること」を侵害するものです。そして、これまで学問の自由独立を保障するために、「任命は形式的なもので、推薦された者を拒否することはない」としてきた政府見解に反します。よって今回の首相による任命拒否が可能であるという解釈変更は、行政の裁量を越えた恣意的な権力の発動であると疑わざるを得ません。
加えて、任命拒否の目的や理由を説明することなく、政府に批判的とされる研究者を任命除外することは、学問の自由独立を脅かし、研究活動を委縮させるものであり、この国における言論と思想の自由そのものを危うくさせることを危惧しています。
わたしたちはキリスト者として、かつて日本でキリスト教信仰ゆえに弾圧された、その歴史と先人の体験を思い起こし、キリスト教信仰が長い歴史を通して生み出した、人間の尊厳、信教の自由、そして民主的社会を、守り支える意志によって、この度の措置に抗議します。そして日本学術会議法に沿って推薦された6名の会員の任命拒否を直ちに撤回することを強く要求します。
2020年10月9日
日本ナザレン教団
理事長 江上環
日本学術会議の任命拒否に抗議し、即時撤回を求めます
わたしたちは、宗派の違いを超え、憲法9条を守り、戦争への道を許さない平和と立憲民主主義の道をひたすら求め、祈りを共にする宗教者であります。
去る10月1日、菅義偉政権が日本学術会議から推薦された105名の新会員のうち、6名の候補を除外したことが明らかとなりました。現在まで、菅政権はその除外の理由を一切明らかにしてもいません。その6名の研究者はこれまで、安保法制や共謀罪法の成立に反対の意を唱え、辺野古新基地建設に反対してきたことで知られています。安倍政権時代の路線を引き継ぐと主張する菅政権が日本学術会議の人事に介入することは、日本国憲法と日本学術会議法に背反する専制的行動であり、わたしたちは断固抗議します。
わたしたち宗教者は、この「学問の自由」の侵害を許すことがまた「信教の自由」の侵害にも及ぶという危機感を抱きます。「学問の自由」とは、権力に媚びることなく、批判的精神を尊び自らの過ちを誠実にただしつつ、真理を探究する道であります。それは「信教の自由」の重要性と深くつながる真実であります。この自由が専制的な力によってゆがめられるとき、民主主義の根幹が崩れ、社会から批判的精神が失われ、全体主義がはびこり、最後には社会と国家の危機を乗り越える道をも見失う結果となるという危機感を、わたしたち宗教者は抱き、警告せずにおれません。
わたしたち宗教者は、菅首相がこの度の6名の研究者の任命拒否の過ちを認め、謝罪し、即時撤回することを、ここに強く求めるものであります。
荒川庸生(日本宗教者平和協議会代表理事)、石川勇吉(浄土真宗僧侶)、石黒友大(お題目九条の会会長)、岡田隆法(真言宗豊山派 泉福寺住職)、小武正教(念仏者九条の会共同代表)、小野文珖(群馬諸宗教者の集い代表)、加藤俊正(真言宗豊山派 石手寺住職)、菅原龍憲(東西本願寺非戦平和共同行動共同代表)、對月慈照(大谷派9条の会・長浜)、武田隆雄(日本山妙法寺僧侶)、野田尚道(曹洞宗僧侶)、山崎龍明(浄土真宗本願寺派 法善寺前住職)、山口紀洋(日蓮宗僧侶・弁護士)、石川治子(聖心侍女修道会)、大倉一美(カトリック司祭)、勝谷太治(日本カトリック正義と平和協議会会長)、清水靖子(ベリス・メルセス宣教修道女会)、浜口末男(カトリック大分教区司教)、弘田しずえ(ベリスメルセス宣教修道女会)、古屋敷一葉(カトリック修道女)、松浦悟郎(カトリック名古屋教区司教)、光延一郎(日本カトリック正義と平和協議会秘書)、金 性済(日本キリスト教協議会=NCC=総幹事)、平良愛香(平和を実現するキリスト者ネット事務局代表)、内藤新吾(日本福音ルーテル砲台教会牧師)、比企敦子(日本キリスト教協議会教育部総主事)、藤谷佐斗子(日本YWCA会長)、弓矢健児(日本キリスト改革派教会宣教と社会問題委員会委員長)
2020年10月13日