【あっちゃん牧師のおいしい話】第1回 聖書の饗宴

僕がかつて、ドイツのケルンという街で日本語教会の牧師をしていたときのことです。礼拝堂をお借りしていた現地教会から「聖書の饗宴(きょうえん)」へ日本語教会の皆さんをご招待したいとのお誘いをいただきました。普通午後に行われる日本語教会の礼拝は、午前の現地教会の礼拝に合流するということにし、あちらこちらで教会の鐘が鳴る日曜日の朝、支度をしてバスに乗り込み教会へと向かいました。

聖書の饗宴とは何のことだろう。あれこれ想像しながら教会に到着。この日の礼拝は、創世記25章にある「レンズ豆と長子の権利」というテーマでした。もっともドイツ語がさほど理解できない僕にとって、説教の内容はチンプンカンプン。聖書の話をあれこれ想像しながら礼拝の時間を過ごしていますと、どこからともなくステキな香りがただよってくるではありませんか。僕の関心はいつしか、そのおいしそうな香りに向いていたことは言うまでもありません。

実は、この日のコンセプトというのは「おいしそうな聖書の話をいただいて、その後に話にちなんだ美味(おい)しい料理をみんなでいただきましょう」というものだったのです。料理の監修は現地教会メンバーであるウェーバー博士(どの分野の博士かはわかりません)。博士から説明(これまたよくわからなかった)を受けている間に、席に置かれていたメニューを見ていました。そのときの料理をご紹介しますと、

ジンジャーティー/サラダ・リベカの畑より(きゅうりのフェンネル風味サラダ)/バサイバダヴィ(レンズ豆をドライフルーツやナッツとあえたヨーグルト風味の一品)/ざくろのシャーベット/ヤコブの山羊(実際はラム肉のロースト)/キネレット風レモンムース/水・赤ワイン・中東風カルダモンコーヒー。

さすがに、聖書に書かれている時代に食べていたものを、そのままそっくり再現したというわけではありませんが、聖書に書かれている話を思い浮かべながら、美味しい料理に舌鼓を打って、教会の皆さんと楽しくおしゃべりするひと時をもつ。「聖書の饗宴」とはよく言ったものだと、お腹も心も満足しながら過ごした一日であったことを、今でも思い出します。

ところで、わたしたちは聖書を読んでいると、意外にも「食に関する話」がかなり登場します。食べる喜びや楽しさ、食い物のうらみやスキャンダル、さまざまな食材や料理、食べ物を育てること、食べてはならないもの、食べるのをやめることなどなど。それだけ生きることと食べることは絶対に切り離せないのだと、改めて思わされます。

そんな「食べること」「美味しい体験」「聖書」を織り交ぜたものをいつか綴(つづ)ってみたい。そんなことを思っていたところで、クリスチャンプレスからコラム執筆のお誘いがあり、このたび第2・第4月曜日の連載を担当することになりました。齋藤篤と申します。ということで、これからしばらくの間、皆さんに「おいしい話」をお届けすることができたらと思っています。どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いします。

あれ、でもちょっと待てよ・・・。僕が書こうとしているのは「おいしい話」なのか、それとも「美味しい話」なのか。ひらがなにするか漢字にするかで、受ける印象が随分違うもんだと僕は思ったのですが、皆さんもそう思いませんでしたか?「おいしい話」と聞くと、何やらうさん臭いもうけ話のにおいがプンプンとしてくるようで、果たして僕はそんなのを書きたいのだろうかと、思ってしまったわけです。

でも、おいしいもうけ話は、最終的に人を幸せにすることができれば、それは立派な「美味しい話」になり得るのではないかと僕は思うんです。聖書の話って「結構うさん臭い」んじゃないかって。食べ物の話ひとつとっても、空から食べ物が降ってきた話とか、ほんのちょっとの食べ物がいっぱいに増えちゃった話とか、それを信じるとか信じないということを抜きにして、普通にこんな話を読んだら「本当にそんな話があるんかいな」と首を傾げたくなるかもしれません。

聖書に登場するうさん臭い話のほとんどは、そこで出会った人たちが「幸せになれた」という結末で終わっています。まさに「おいしい話」は「美味しい話」となったというわけです。なので、僕は「美味しくなる聖書のおいしい話」を、ここで書き綴っていきたいと思います。今日はここまで。また次回皆さんとおいしい話を一緒にいただけることを楽しみにしています!

 

齋藤篤

齋藤篤

さいとう・あつし 1976年福島県生まれ。いわゆる「カルト」と呼ばれる信者生活を経て、教会に足を踏み入れる。大学卒業後、神学校で5年間学んだのち、2006年より日本キリスト教団の教職として、静岡・ドイツの教会での牧師生活を送る。2015年より深沢教会(東京都世田谷区)牧師。美味しいものを食べること、料理することに情熱を燃やし、妻に料理を美味しいと言ってもらい、料理の数々をSNSに投稿する日々を過ごしている。

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