自己啓発本は本当に役に立つのか? ハンナ・アンダーソン

昨今の自己啓発ブームは勢いを増し、今日では世界で年間1000万冊以上も自己啓発書が販売されているという。またその内容も多岐にわたり、時間の管理方法から天職の発見方法、読者の内面世界の改革や成功願望を駆り立てるものまで様々である。それらについて作家・聖書科教師のハンナ・アンダーソン氏は「このジャンルを統一しているのは自信に満ちた人物たちが読者に『今、最高の人生』を追求するよう鼓舞しているものがほとんど」だと述べた。

そんなアンダーソン氏が、キリスト教と自己啓発の関係性について「自己啓発本は本当に役に立つのか?」と題して寄稿した。「クリスチャニティ・トゥデイ」から紹介する。

今日「多くのクリスチャンが自己啓発に親和性を覚えている」と述べる同氏。もともと中世のころ、自己啓発書は指導的役割を担う上流階級者を中心に読まれていたが、産業革命以降、広く大衆向けに読まれるようになった。その背景には富の保有と社会の個人主義化が関係する。実際、産業革命期に記された自己啓発の名著であるサミュエル・スマイルズ『自助論』では「すべての人間には、果たすべき偉大な使命があり、培うべき高貴な能力があり、成し遂げるべき広大な運命がある」と記されており、アンダーソン氏も「スマイルズにとって成功とは社会や政治ではなく個人の仕事の中で見出されるべきもの」であったと述べる。

神学者カレン・スワロー・ブライアーは著書『The Evangelical Imagination』で「リバイバル運動が産業革命や社会的流動性という考え方が生まれたのと同時期に始まったのは偶然ではなく、また個人の改心を(社会が)強調するようになったのと同じように、福音主義的な価値観もまた一人一人の魂に注目し個人の向上を強調するようになったのです」と述べている。

一方、アンダーソン氏はキリスト教特有のメッセージと自己啓発が同一視されることを警戒する見解も紹介。牧師シャロン・ホッド・ミラーは「福音の意味合いの一つは私たちが神との正しい関係を回復することであり、それは自分自身の中で起こる」と述べ、自身の牧会する教会でも霊的形成に〝自己〟を意識的に取り入れていることを表明している。しかし「あくまでも自己啓発は福音において非常にサブカテゴリー的」であるとのこと。「教会が〝福音とはどのように自己を回復させるか〟ということを明確にできない場合、キリスト者は世俗的な著作によってそのギャップを埋めようとするが、自己啓発にまつわる多くの言葉はそのビジョンがあまりにも小さすぎる」と言う。

そこでアンダーソン氏は「現代のクリスチャンは自己啓発本を読むのと同じように聖書を読んでいるのだろうか?もしそうだとしたらそれは間違っているだろうか? 私たちは聖書を読み、それによって変えられるはずではないのか?」と問いかける。

これについてクリスチャニティ・トゥデイの評論家ジェン・ウィルキンソンは聖書を自己啓発書として読むことに警告を発している。「聖書が私たちを変えるのは事実であるが、多くの人は一口サイズ、読めば10分以内に自分の生活を良くする存在であると期待している。しかし聖書は手っ取り早く感情的な問題を解決するためのものではないし、ライフハックを提供するものではない。そうではなく読む者の心を変容させるのがゴールなのである」。つまり多くの自己啓発書が提供する知恵やアイデアはそれ自体優れているものの、人々の人生を奥深くまで想定しているわけではなく、その点において聖書は読み、咀嚼するのに時間はかかるかもしれないが、その分時代を超えても変わらない神の言葉は血肉にまで染み込み、根本的に人の視座を変えるというのである。

さらにウィルキンソンは一歩踏み込み「私たちは自分自身のために聖書を学ぶべきですが、自分自身だけで学ぶべきではありません。聖書は共同体の中で理解されるべきものであり、それは地域教会という共同体であり、聖徒という共同体でもある」と述べ、個人単位だけでなく隣人に影響を与え、隣人と共に成長することが聖書における人格形成であると結論づけた。

総括としてアンダーソン氏は「私たちが成長するためにはコミュニティが必要なだけでなく、成長できないときにもコミュニティが必要なのだ。私たちには他者のサポートが必要であり、彼らは、私たちの苦闘に寄り添い、私たちの最善の努力にもかかわらず人生が困難であり続けるとき、共に悲しんでくれる。またクリスチャンとして自己啓発書を読むということは、嘆きと変容の両方を視野に入れながら、共同体の中で生きることを意味する。それは私たちの限界を気づかせ、神への信仰と他者への信頼へと導く」と述べた。

彼らの議論は自己啓発書が良い悪いかという議論ではなく、それが聖書とは別の目的を持った存在であり、その特徴は非常に個人主義的傾向が強く、且つ短期解決型のメッセージが主題となっていることを明らかにした。他方聖書は読む者を長期的な変容へと導き、またそれらは共同体の中で成されるという。両者は「人生を変える」という共通のテーマを持ちつつ、それが「変えられる」方法と「変えられた」後の視座が全く異なることを確認した。クリスチャンの中にも自己啓発書を愛読する人たちがいるであろう。それはあなたの人生にある種の効果をもたらすとともに、聖書とは異なる目的をもって記されたことを覚えておく必要があるだろう。

ハンナ・アンダーソン ヴァージニア州在住の作家、聖書科教師。著作に『Heaven and Nature Sing』『Turning of Days』ほか。キリスト教とポップカルチャーについて取り上げるPodcast番組『Persuasion』の共同司会者でもあり、文化及び日常的な問題を神学的な視座から的確に考察することへ定評がある。

(翻訳協力=福島慎太郎)

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