賀川豊彦と中村哲 通底する精神に市民ら共鳴 関東大震災100年事業で上映会

関東大震災100年を機に、ボランティアの先駆者である賀川豊彦ゆかりの37団体・個人で結成された「関東大震災100年事業『賀川豊彦とボランティア』実行委員会」は2月3日、記念事業の一環としてドキュメンタリー映画『医師 中村哲の仕事・働くということ』(日本電波ニュース社)の上映会を連合会館(東京都千代田区)で開催した(カガワ協同組合スクーリング=JA全中、こくみん共済coop、日本生協連=協力)。広く一般メディアなどでも呼び掛けられ、当日は協同組合の関係者を含め約220人が参加した。

同実行委員会の趣意書には、「この危機的状況だからこそ、かつて賀川と仲間たちが果敢に挑んだように、市民同志あるいは組織同志がつながりあい、同じ目標に向けて行動を共にすることが求められている。賀川豊彦と仲間たちから改めて学び、それを新たな実践に結びつけたい」とある。今回、アフガニスタンの地で地域住民とともに用水路建設に取り組み、多くの命を守った中村医師の姿勢から、「たすけあい、ボランティア、働く」という主題についてともに考え、交流しようと企画された。

〝根底に揺るぎない信念〟
協同組合による能登支援の報告も

映画は、2020年に成立した労働者協同組合法を記念し制作されたもの。アフガニスタンとパキスタンで、ハンセン病や戦乱、干ばつに苦しむ人々のため、35年にわたり用水路建設、農村復興に尽力した中村医師の軌跡をたどりながら、「働く」とは何かを考える。著書からの言葉やインタビューも多数、収録されている。

中村医師は2019年12月、現地の作業現場に向かう途中、凶弾に倒れた。1983年、海外での医療活動を支えるために結成された国際NGOペシャワール会は、引き続きすべての事業を継続し、中村医師の希望はすべて引き継ぐとしている。

上映後のアフタートークでは、ペシャワール会で用水路の建設に携わった石橋忠明さんが登壇。賀川豊彦の主著『死線を越えて』を読むと、人のために尽くした知識人という共通点が浮かび上がると前置きし、生前の中村医師との思い出などを語った。かつて中村医師に「何度聖書を読んでも分からない」と打ち明けたことがあったが、当時は明確な答えはもらえなかったという。その後、秘書を介して紹介された『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』(NHK出版)を読み、「神は我らと共にいる」というのが伝えたかった答えだったのではないかと振り返った。

また、結果的に遺言とも思えるインタビューの中から、「武器による支援ではなく、互いに協力し合うことが真の国際貢献ではないか。宗教、国境、民族、言語を超えて仲良くすることしか、私たちが生き延びる方策はない」との言葉を紹介し、用水路の開発が気候変動対策にもなり、世界平和にも貢献できるはずと訴えた。

続けて生活協同組合ユーコープの矢崎夏彦さんが、能登半島地震の被災支援で現地を訪れた様子を写真を交えながら報告。被災者からもらった感謝の声なども紹介し、協同組合の存在意義について改めて実感できたと語った。東日本大震災では、コープふくしまの対策本部に賀川豊彦の関東大震災での言葉「被災者の、目となり、耳となり、口とならなければならない」が掲げられ、県内の福祉施設に電話をかけ、足りていない物資をヒアリングして届けたという実績がある。

同実行委員会の編著による『まんがでわかる賀川豊彦と考えるボランティア』(家の光協会)にも登場したタレントの小島よしおさんも、動画でメッセージを寄せ、「(賀川と中村医師)二人に共通するのは、しっかりした根を持っていること。これからますます『たすけあい』が見直される時代になると思う。参加した皆さんには先頭に立って、賀川イズムを伝えていってほしい。微力ながら私もがんばりたい」と呼び掛けた。

交流セッションでは、参加者が映画の感想を踏まえ、「たすけあい、ボランティア、働く」をテーマに意見を交わした。「たすけあい」を形にした協同組合により、貧窮や困難の克服に献身した賀川の姿もふまえ、「どうしたら『たすけあい』を日常のものにできるのか」「明日から取り組めることは何か」「働くということは」など、それぞれの活動を共有する場面も見られた。

終了後には、「戦火と干ばつにより住む場所を失った人が『私たちは農業がしたいだけなんだ』と言っていたのが印象的だった。働くとは利己主義ではなく、利他主義であるということ。人はつながりのなかで生きる。人は人のために働いて支え合い、人のために死ぬ。結局はそれ以上でもそれ以下でもない」「賀川豊彦も中村医師も初めて知った。二人のように大きなことはできないが、身近なところから『たすけあい』を実践していきたい」などの感想が寄せられた。

同実行委員会では、3月30日に同じ連合会館を会場に「〝たすけあいの社会〟を世界にまで拡げよう!――地球規模課題を前にして」と題するシンポジウムを計画中。徳川宗家19代当主で徳川記念財団理事長の徳川家広氏、横浜市立大学国際教養学部教授の上村雄彦氏が講演する。問い合わせは賀川豊彦記念松沢資料館(Tel 03-3302-2855)まで。

なお、ペシャワール会では映画の上映会についての相談も受け付けている(Tel 092-731-2372)。

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