香港の民主化運動を牽引してきた朱耀明氏(80歳)が、2023年11月に台湾で回想録『鐘を鳴らす者の言:朱耀明牧師回想録』(左岸出版社)を出版した。タイトルは、2019年の裁判の際の最終弁論「鐘を鳴らす者の言」から取られている。
朱氏は回想録の中で、中国大陸で孤児として育った生い立ち、香港で苦労した青年時代、またキリスト者になり牧師になるまでの経緯や香港の社会運動に参与してきた記録などの自分史を綴つづっている。1989年の天安門事件の際に朱氏も中心的に関わった、中国大陸の民主活動家たちを香港経由で海外に脱出させる「黄雀行動」についての記述は、現在の中国大陸・香港の政治情勢では公開することが難しい内容が多いこともあり、こうした状況への抗議の意味を込めて、数十ページ余りが伏せ字とされている。
朱氏は2014年の雨傘運動で道路占拠に指導的役割を果たしたとして、19年に「公衆妨害共謀罪」で懲役1年4カ月、執行猶予2年の有罪判決を受けたていた。20年末、台湾に移住し、現在は国立政治大学の客員研究員という身分で台北市に在住。23年9月に、海外移住した香港人が立ち上げたネットメディア「緑豆」(Green BeanMedia)のインタビューに応えて、自身が台湾在住であることを初めて公にした。同インタビューのドキュメンタリー番組は、YouTubeで公開されている(日本語字幕あり)。
朱氏の2019年の裁判の際の最終弁論「鐘を鳴らす者の言」は、松谷曄介編訳『香港の民主化運動と信教の自由』(教文館、2021年)に所収。