統計が示す日蓮宗女性教師の現状と課題 丹羽宣子 【宗教リテラシー向上委員会】

今年の春、19年ぶりに行われた日蓮宗の全女性教師を対象としたアンケート調査(2021年実施)の報告書が刊行された。このような大規模な調査は他になく、貴重なものとなっている。筆者はこの調査に携わっていたのだが、報告書のポイントとなる部分をいくつか提示してみたい。

まずは回収率の高さである。日蓮宗現代宗教研究所は2021年6月から7月にかけて、宗内の全女性教師861人にアンケート用紙を配布した。宗門の封筒で届いたことも影響を与えていることは間違いないが、とはいえ一般的に郵送法の回収率は3割以下と言われている中で半数に近い48.6%に達した。自由解答欄には小さくびっしりと書かれた言葉、欄外にはみ出す文章も多く見られた。スペースが足りなくなり、別紙が添えられたものもあった。届けたい声があふれ出てくるような返送票が多かった。

 

実際に届いた声をいくつか紹介したい。信行道場(日蓮宗教師になるための修行道場)について、「日常(自坊)の用事に追われることなく『心の夏休み』を頂いた気持ちでした」「35日間子供を預け修行するのは大変でした。しかし、道場は自分を振り返り、向上させてくれた時でした」など「人生における特別な経験」として振り返る回答がいくつも見られた。男性教師にとっても信行道場が特別であることは変わらないだろうが、家庭の主婦にとって日常から隔離された結界修行のインパクトはより大きいのかもしれない。子どもたちの仏種を育てる、認知症喫茶店、ビハーラやグリーフケアの勉強をしたいなど、さまざまな活動への希望も多く見られた。

他方、教師として活躍しようとする時に〈女性〉であるということがマイナスに働く場面も報告された。例えば「葬儀等を紹介された場合、女性の僧侶はことごとく断られる」「寺庭婦人会も女性教師の会も、住職やご主人の反対により参加できない方がいる」「『女が意見を述べるのは可愛くない』と発言する男僧」などである。

「女性にだけアンケートを取ること自体がセクハラ」という厳しいお声もあった。しかしそれでも女性教師の状況を問い続けなくてはいけないのは、当人が必死にがんばろうとしても〈女性〉としてカテゴライズされるために周囲の理解を得られなかったり、諦めざるを得なかったりする場面は未だ存在しているからだ。

「男性も女性も関係ない」といった意見も一部に聞かれるが、このような言説には注意が必要である。一見実力主義で平等だが、現実にある不平等をそのマジックワードで覆い隠してしまう。いわゆるポストフェミニズム(フェミニズムやジェンダー論は時代遅れになっているという考え方)である。残念なことに今回の報告書について、ポストフェミニズム的な紙面構成で紹介する記事がある媒体に掲載された。報告書から本来受け止められるべき課題を再び不可視化してはいけないと、筆者は強く思う。

『日蓮宗全女性教師アンケート報告書(令和3年度版)』全文は日蓮宗現代宗教研究所HP(https://bit.ly/3OdX9Sm)からダウンロード可能である。また関連する二つの論文も同HP内で公開されている。一つは、女性だけの調査は不適切といったご意見へのアンサーとして書いたものである。関心を持たれた方にはぜひ読んでいただきたい。

 

丹羽宣子(中央学院大学非常勤講師)
にわ・のぶこ 1983年福島県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。國學院大學日本文化研究所共同研究員。著書に『<僧侶らしさ>と<女性らしさ>の宗教社会学――日蓮宗女性僧侶の事例から』(晃洋書房)。

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