中国発の「メイフラワー号」とキリスト教NGO 佐藤千歳 【この世界の片隅から】

イースターを控えた4月7日、米テキサス州ダラスの空港に、キリスト教迫害を逃れて中国を脱出した深圳の「メイフラワー教会」の信者59人が到着した。2019年の集団出国から、韓国、タイと4年間に及んだ流浪の旅を振り返り、同教会の潘永光牧師は「(出エジプト記の)イスラエル人と違って、私たちは荒野で40年も過ごさず、たった4年で『エジプト』を出られました」と語り、出迎えた支援者や米国メディアの記者を和ませた。

習近平政権が「宗教中国化」政策により宗教統制を強化して以降、信教の自由や思想信条の自由を求め、中国から欧米や台湾、日本へもキリスト教徒の移住が相次いでいる。とはいえ、未成年33人を含む59人の集団移住は前代未聞である。英国国教会の迫害を逃れて北米植民地へ移住したピューリタンになぞらえ、中国のキリスト教界に関心を持つ人々の間では「現代のメイフラワー号」として大きな話題となった。

同教会は2012年、政府に登記しない非公認のプロテスタント教会として深圳に設立された。通常の教会活動のほか、学校の運営に力を入れていた。無神論の思想に基づく中国の公教育ではなく、キリスト教精神による教育を子どもに受けさせたいという信者の強い希望があったという。

しかし2018年の改訂宗教事務条例の施行、さらに2019年に深圳と隣接する香港で続いた抗議デモ以降、同教会に対する取り締まりは厳しさを増した。潘牧師は支援者に、子どものキリスト教教育をもはや実践できない社会環境となったことが、集団移住の決断を最終的に後押ししたと語っている。

信者は2019年、韓国に定住を試みたが難民認定は得られなかった。2022年にタイへ移り国連機関に難民申請を行ったが、これも難航した。最後は、米国のキリスト教系NGO「対華援助協会」の呼びかけで、米議会の有力議員やワシントンの人権擁護団体が動き、米国務省が人道的措置として米国への入国を認めた。

テキサスのダラス・フォートワース国際空港に到着したメイフラワー教会の信者と支援者の傅希秋牧師(前列右から3番目)=2023年4月8日、対華援助協会公式ホームページ(https://www.chinaaid.net/2023/04/blog-post_78.html?m=1)

以上の経緯の中で筆者は、米政府による受け入れに主要な役割を果たした対華援助協会と、設立者の傅希秋牧師に注目した。

1968年生まれの傅牧師は、北京で非公認教会を率いたが、当局の取締りで活動が困難となり1997年に米国へ移住した。2002年に対華援助協会を設立し、テキサス州を拠点に、宗教活動を理由に中国国内で拘束された人々の支援を続けている。2013年には、強制妊娠中絶の被害を訴え、当局に長期軟禁された人権活動家の陳光誠氏の出国を支援し、国際的な注目を集めた。

傅牧師は、米国のキリスト教コミュニティをはじめ米議会やNGO、さらにEUや台湾社会とも連携しており、こうしたネットワークがメイフラワー教会の救出でも活用された。

なお、南部テキサス州を拠点とすることからも分かるように、同協会の関係者は政治的に保守的な傾向がみられる。傅牧師自身は「アメリカ人の支持者は、ファストフードのように即効的な支援の効果を求めるのではなく、中国のことを時間をかけて学んでほしい」と自著で述べている。しかし筆者が交流した同協会の支持者には、中国社会や中国のキリスト教徒の実情に関心が薄く、宗教迫害を中国共産党政権を攻撃する手段としてのみ利用したいのではないか、と思われるワシントンの政治家や活動家も混ざっていた。

こうした問題には留意すべきだが、中国国内のキリスト教をめぐる状況が厳しさを増す中で、同協会が20年間の活動で切り開いた中国の教会と欧米社会とを結ぶネットワークは、今後も重要度を増すであろう。メイフラワー教会の信者の大人たち、子どもたちにとって新天地が約束の地となり、その生活が順調であることを祈りたい。

 

佐藤 千歳
 さとう・ちとせ 1974年千葉市生まれ。北海商科大学教授。東京大学教養学部地域文化研究学科卒、北海道新聞社勤務を経て2013年から現職。2005年から1年間、交換記者として北京の「人民日報インターネット版」に勤務。10年から3年間、同新聞社北京支局長を務めた。専門は社会学(現代中国宗教研究、メディア研究)。

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