第5回賀川豊彦シンポジウムが11月9日、明治学院大学(東京都港区)で開催された。テーマは、「賀川豊彦とSDGs(持続可能な開発目標)──だれ一人とり残されることのない社会」。
同シンポジウムは2部構成で、1部では二つの講演が行われた。
まず、村木厚子(むらき・あつこ)津田塾大学客員教授(日本生活協同組合連合会理事、元厚生労働事務次官)が「SDGsと日本──ジェンダー平等を中心に」というタイトルの基調講演を語った。
日本では同じスタートラインに立てない人が多くいること、そして支援が必要な子ほど社会とつながらない現状を、実際のデータを用いて伝え、「『だれ一人とり残されることのない』というSDGsの理念に照らせば、これは放置できない問題です」と話した。村木さんの中での合言葉は「WE DO」と「異なるものとつながる」の二つだという。「生きづらさ抱える人への支援は、行政の役割も重要ですが、人と人とのつながりもまた大きいのではないでしょうか」と力を込めた。
続いて、濱田健司(はまだ・けんじ)JA共済総合研究所主任研究員が「農福連携における社会参加──キョードー者のための」と題してテーマ講演を行った。
「農業には癒やしの力がある」と考える濵田氏は、「農福連携」という新しい働き方を提案する。それは、障がい者が農業生産に従事するという、農業と福祉を連携させた取り組みだ。またその精神は、すべての命が役割を持ち、支え合っているというもので、そこでは社会的弱者は「キョードー者」となる。農福連携の実践事例を紹介しながら、障がい者就労が抱える問題点と、労働力・担い手不足という農業の問題点をつなげることで、双方が「ハッピー・ハッピー」になると語った。
それらの講演の後、逢見直人(おうみ・なおと)日本労働組合総連合会(連合)会長代行が、ILO(国際労働機関)設立100年と連合発足30年を踏まえ、労働組合が賀川スピリッツをどのように継承しているかを伝えた。
SDGsの17のグローバル目標の一つとなっている「ディーセント・ワーク」(働きがいのある人間らしい仕事の促進)が働き方改革の基礎になっているという。
「ディーセント・ワークの推進は、SDGsを日本の社会の中に定着させることにつながり、連合はそのための役割を担っています。その役割を通して賀川スピリッツを世界に発信していきたいと思います」
2部では、村木氏、濱田氏、逢見氏に加えて、稲垣久和(いながき・ひさかず)東京基督教大学特別教授と、コーディネーターを務めた伊丹謙太郎(いたみ・けんたろう)千葉大学特任助教、そして会場を結んでのパネル・ディスカッションが行われた。その中で、賀川の時代には問題になっていなかった「気候変動」といった地球環境の問題も含めたコメントも寄せられた。
最後に稲垣氏が次のように締めくくった。
「ドイツ出身の哲学者ハンナ・アーレントは著書『人間の条件』の中で、『人間が生きる条件は地球以外にない』と言っています。『科学技術が進めば、地球外に住めばいい』などと発想する人もいますが、冷静に考えれば、私たちの故郷は地球なのです。地球を大切にしなければ、私たちは生き延びることができません。資本主義が成長し、その成長が止まると、また成長させるという自転車操業のような経済成長信仰から抜け出し、今は新しいかたちの経済のあり方を模索する時だと思います。これから日本がたいへんな時代に向かっていくにあたり、人々がこの国をどう立て直していくか、価値観の大転換が求められています。『経済人間』(ホモ・エコノミクス)から『倫理人間』(ホモ・エティクス)への転換が必要な時期ではないでしょうか」