「狭山事件」から60年 〝再審の扉開く最後の大詰め〟 キリスト教諸教派・団体代表ら東京高裁へ要請

鑑定人尋問と新証拠の鑑定求める

狭山市で女子高校生が殺害された「狭山事件」から60年を迎え、無期懲役が確定した石川一雄さん(84)=仮釈放中=の無実を訴える支援者らは、「再審の扉を開く最後の大詰め」としてさらなる世論の喚起を目指し、訴えを強めている。

2006年に申し立てた「第三次再審請求」に関する東京高裁の判断について、今年3月が目処と見られていることを受け、部落差別の撤廃や冤罪被害の救済を求めてきたキリスト教各教派・団体は2月27日、都内で学習会と「キリスト者による狭山要請行動」を開催した。

これまで、石川さんの無実を証明する証拠255点が東京高裁に提出されており、弁護団は「事実取調請求書」を提出。新証拠を作成した鑑定人のうち11人を証人尋問するよう求めるとともに、証拠である万年筆インクについて鑑定の実施を求めている。

この日、集まった教派・団体の代表者らが東京高裁に提出した要請文では、「狭山事件は単なる冤罪ではなく、部落差別に基づく冤罪であるという観点」から、「1974年の無期懲役の判決以来およそ半世紀もの間、一度も事実調べがおこなわれていないことは裁判所の義務不履行、怠慢」と非難し、「憲法で保障された公正·公平な裁判の精神に立って……11人の鑑定人尋問と万年筆インクに関わる鑑定を東京高等裁判所が速やかに実施するように」求めている。

要請文に名を連ねた教派・団体は以下の通り。部落問題に取り組むキリスト教連帯会議(部キ連、奥村貴充議長)、日本キリスト教協議会(NCC、吉高叶議長、金性済総幹事)、日本基督教団(雲然俊美議長)、日本基督教団部落解放センター(亀岡顕運営委員長)、日本カトリック部落差別人権委員会(中村倫明委員長)、近畿福音ルーテル教会部落問題に取り組むキリスト教連帯会議委員会、在日大韓基督教会(中江洋一総会長)、日本キリスト教会人権委員会、日本自由メソヂスト教団、日本聖公会(入江修人権担当主教)、日本ナザレン教団社会委員会、日本バプテスト同盟(大矢誉生理事長)、日本バプテスト連盟、日本福音ルーテル教会(大柴譲治総会議長)。

部落差別と自白強要の実態学ぶ
4団体の呼び掛けで初めて実現

狭山事件は1963年5月1日、埼玉県狭山市で女子高校生が行方不明になり、脅迫状が届けられ、被差別部落への見込み捜査で石川一雄さん(当時24歳)が逮捕された事件。石川さんは1カ月にわたり留置場で取り調べ、自白させられた。一審は死刑、二審では無期懲役判決が確定。再審請求を申し立てたが第一次再審請求は事実調べもなく棄却。1986年8月に第二次再審請求を東京高裁に申し立てたが、99年に再審請求を棄却。2006年に第三次再審請求後、09年から三者協議が開かれ、2回目の協議で裁判長が証拠開示を勧告。10年の三者協議で東京高検が開示勧告を受け、捜査段階の取り調べ録音テープなど36点の証拠が47年ぶりに開示された。22年には、弁護団が「事実取調請求書」を東京高裁に提出し、鑑定人の証人尋問と裁判所による鑑定の実施を求めている。

要請行動に先立ち、都内で開かれた学習会では、部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部の安田聡さんが、「狭山第三次背再審の現状と課題」と題して講演=写真上。当時の新聞報道などをもとに、犯人を取り逃がした警察が世論の非難に迫られ、見込み捜査に至った経緯や、冤罪の背景にあった部落に対する差別と根深い偏見について紹介した。

この間、弁護団が提出してきた新証拠は257点におよび、特に科学者や元科捜研技官として犯罪捜査に従事したその分野の専門家による鑑定書が多数出されている。逮捕当日の取り調べで石川さんが書いた筆跡を見る限り、識字教育を十分に受けられなかったにもかかわらず、脅迫状にあるような漢字、拗音、促音、長音などが正しく書けたとは考えられない。現場近くで発見されたスコップも、養豚場のものとも、死体を埋めるために使ったものとも特定できない。さらに、石川さんの自白通り、後に家から発見され有罪の証拠となった万年筆についても、蛍光X線分析によって、被害者が当日に使用していたインクとは異なることが科学的に証明されているという。

「これだけ新たな証拠が明らかになっている以上、裁判所は新証拠の証拠調べを行わなければならない。新たに開示された録音データを精査すれば、自白を強要されたことは明白」と指摘した。

また、警視庁高井戸署の警察官が、中学3年の男子生徒への事情聴取で声を荒げた音声が公開された事件を例に、60年前と取り調べの実態が変わっていないことにも言及。台湾の取調室では録画も、弁護士の立ち合いも当たり前になっている現実と比較し、冤罪を生み出す旧態然とした司法制度について非難した。

安田さんは、「差別をなくし、人権を確立することが裁判の目標であり、石川さんの願いでもある。再審無罪判決を勝ち取って『みえない手錠をはずすまで』(2014年公開の金聖雄監督によるドキュメンタリー映画のタイトル)ともに闘いましょう」と訴えて講演を結んだ。

要請行動に参加した日本基督教団部落解放センター主事の上野玲奈さんは、今回の要請行動について、「部キ連、NCC、日本カトリック部落差別人権委員会、日本基督教団部落解放センターの4団体が呼び掛け、実現した。これまでも各団体がそれぞれに要請行動を行ってきたが、このような形で行われたのは初めて」と、その意義を強調した上で、「要請文を裁判所職員に手渡す際、各教派・団体の議長などが、聖書の言葉を引用したり世界の教会とのつながりを説明したりするなどしながら、高齢の石川さんのために裁判所が誠実に動くよう求めることができた。この活動には長年関わってきた方々が多いが、狭山事件をよく知らないかもしれない若い世代の方々にも思いを寄せてもらえるよう、努めたい」と抱負を語った。

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