Q.牧師や神父の立場で特定政党の支持を表明することは許されますか?(50代・男性)
およそ牧師、神父などの教職者が政党の支持を表明してはいけないなどという法律はこの国にはありません。政教分離の原則が憲法に定められていますが、それは権力が特定の宗教と距離を置かなければならないという原則です。宗教者、あるいは信仰者が政治的な活動をしたり政治的信条を持ってはいけないことはないわけです。
いやむしろ、思想信条の自由は何人にも保障されていますし、政治的意見の表明、政治的活動などは、権力の行使にあたっての中立性を要求される公務員を例外として、基本的人権として保障されています。と同時に、民主主義社会では、政治に関心を持ち、政治的意見を表明することは、自由社会を維持し、成熟させるために不可欠であると考えられています。
牧師や神父もこの民主主義社会の構成員ですから、それぞれの仕方で現実の世界にコミットすることが求められるし、政党支持の表明をする権利も保障されていると言えましょう。
また、基本的人権は、国家からの侵害だけでなく、社会的な勢力その他私人による侵害からも保護されなければならないと考えられています。実際、教職者が特定の政党を支持することを禁じるような規定を定めている教団を私は知りません。
さて、特定政党支持の表明が以上のとおり、国家からも、組織・教団からも自由であったとして、信徒はどうでしょうか。各個教会にしろ、包括教団にしろ、現行の教会政治において教職者は信徒の上に立っています。にもかかわらず、教会の意思を形成するのは、教会の主に呼び集められた信徒だと私は思います。信徒の信望なくして聖職者は聖職者たり得ません。
初めの問いに戻れば、許されるかどうかは、それによって信徒の尊敬と信望を得られるかどうか、はたまた失うかどうかにかかっているのではないでしょうか。信徒が自らの教会の聖職者を支えるなら、神以外の誰がこれを「許さない」ことができるのでしょうか。
おおしま・ゆきこ 弁護士。1952年東京生まれ。72年受洗。中央大学法学部卒業。84年に千葉県弁護士会へ登録。渥美雅子法律事務所勤務を経て、89年に大島有紀子法律事務所主宰となり現在に至る。日本基督教団本所緑星教会員。