Q.世界保健機関(WHO)の提示するスピリチュアルケアと、近年流行しているスピリチュアルカウンセリングとの違いについて教えてください。(30代・女性)
WHOの提示しているスピリチュアルケアは、チーム医療と全人的医療の必要性が重視されるターミナルケアの臨床現場で注目されている考え方です。死に直面する人々が生きる意味や苦難の意味をどう捉えたらよいか、より良き死に方とはどういうものか、絶望的な状態の中にあって、なお希望を持って生きるためにはどうしたらよいか、愛する人や憎んできた人との人間関係に対してどう「けじめ」をつけるか、死後の問題をどう考えるかといったことなどが、スピリチュアルケアの課題となります。援助者はケアを行うにあたって、患者のこうした問いに真摯な態度で誠実に答える責任があります。
他方、スピリチュアルカウンセリングの目的はと言えば、自信を持って生きることができるようにと自己変容を促すことによって、心の平安と癒しを目指すことにあると言ってよいでしょう。この目的を達成するために自己を肯定し、何でも前向きに考えること、つまり楽観的思考を持つことがよいということを強調します。
具体的方法としては、言葉だけでなく禅や瞑想、呼吸法、ボディワークなどが用いられます。また、ブログやテレビなどの情報媒体、能力開発セミナー、カリスマ的な霊能者などを介して行われることが多いようです。
この種のカウンセリングは若者や中年のビジネスマンに人気があるのですが、その本質は、自己救済にあると言ってよく、そこに至る過程で醸成される無限の自己肯定感は、神と人との境界線をあいまいにし、自己神化の誘惑に陥る可能性や、営利的商業主義の餌食になったり、擬似宗教になったりしてしまう可能性があります。
このように、スピリチュアルカウンセリングは、個や集団の罪悪と真剣に向き合い、その悔い改めと再生を目指すと共に他者の苦しみに関わり、援助していこうとするキリスト教の考え方とは、明らかに一線を画するべきであると思われます。
ひらやま・まさみ 1938年、東京生まれ。横浜市立大学医学部卒業。東洋英和女学院大学教員を経て、聖学院大学子ども心理学科、同大大学院教授、医療法人財団シロアム会北千住旭クリニック理事長・院長、NPO法人「グリーフ・ケア サポート・プラザ」(自死遺族支援)特別顧問を歴任。精神保健指定医。著書に『精神科医からみた聖書の人間像』(教文館)、共著に『イノチを支える-癒しと救いを求めて』(キリスト新聞社)など。2013年、75歳で逝去。