【訃報】 松居直さん(福音館書店元社長、児童文学者)

 まつい・ただし 福音館書店相談役、児童文学者。11月2日、老衰のため都内の病院で逝去。96歳。葬儀は近親者のみで行われた。お別れの会については、現時点では未定。

 1926年京都府生まれ。51年同志社大学法学部卒業。52年の福音館書店創業に参画し、編集部長、社長、会長、相談役を歴任。NPOブックスタート会長・理事も務める。53年に子どもに関わるすべての人たちを応援する月刊誌「母の友」を創刊した後、子どもたちの自由な発想をはぐくむために新しい月刊の絵本をつくりたいと考え、56年に月刊物語絵本「こどものとも」を創刊。当時の児童書の常識に捉われず、絵雑誌に初めて一冊一作主義を導入。後に横判、横書きも採用するなど、当時では画期的な絵本制作を試みた。

 石井桃子、瀬田貞二、松岡享子などと交流を深めるとともに、加古里子、赤羽末吉、堀内誠一、長 新太、瀬川康男、安野光雅、中川李枝子など、多くの絵本作家を発掘。「こどものとも」からは、『おおきなかぶ』『ぐりとぐら』『だるまちゃんとてんぐちゃん』など、今なお愛されるロングセラー絵本が数多く生まれることとなった。自身も絵本の文や再話などを手がけ、主な作品に『ももたろう』『ぴかくんめをまわす』『だいくとおにろく』『桃源郷ものがたり』などがある。

 ディック・ブルーナの「うさこちゃん」シリーズや、エウゲーニー・M・ラチョフの『てぶくろ』など、戦後の日本に海外の優れた絵本を数多く紹介した。

 1965年、絵本『ももたろう』でサンケイ児童出版文化賞、93年、出版界で初めてモービル児童文化賞(現・ENEOS児童文化賞)を受賞。96年、日本児童文芸家協会より「児童文化功労者」の表彰を受ける。97年、AVACOのキリスト教視聴覚教育賞を受賞。2014年にはキリスト教功労者にも選ばれた。研究者としては、石井桃子、瀬田貞二、渡辺茂男らと児童文学の理論を研究、『子どもと文学』(福音館書店)で発表。国内外の講演活動で、保育関係者や保護者への啓発にも努めた。

 著書に『絵本とは何か』『絵本をみる眼』『絵本を読む』『絵本の森へ』(日本エディタースクール出版部)、『絵本・ことばのよろこび』『子どもの本・ことばといのち』『声の文化と子どもの本』(日本キリスト教団出版局)、『絵本のよろこび』(NHK出版)、『松居直のすすめる50の絵本――大人のための絵本入門』(教文館)、『絵本は心のへその緒』(日販アイ・ピー・エス)、『松居直自伝』『松居直と「こどものとも」: 創刊号から149号まで』『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』(ミネルヴァ書房)、共著に『にほんご』(福音館書店)、『絵本の力』(岩波書店)。絵本に『ぴかくんめをまわす』『だいくとおにろく』『桃源郷ものがたり』(福音館書店)など。

 2022年9月、「母の友」に連載したものをまとめた自伝作品『私のことば体験』(福音館書店)が出版された。

功労者に松居直氏、徳善義和氏 日本キリスト教文化協会が顕彰式 2014年11月8日

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