9月22日、旧統一協会(現・世界平和統一家庭連合)が安倍元首相殺害事件後2度目の記者会見を行った。教会改革推進本部を立ち上げた報告だった。
会見の冒頭で本部長の勅使河原秀行氏は、山上容疑者の母親による協会への多額の献金が家庭を崩壊させ事件の動機になったことを認め、たいへん申し訳なかったと謝罪した。そして、宗教が人の恨みを買うようなことは断じてあってはならない。協会の改革が必要であるとして、改革推進本部立ち上げに至った経緯を述べた。
具体的な改革内容としては、①2009年のコンプライアンスの徹底、②信者の献金は自由意志を尊重し、過度な献金の強要はしない、③勧誘の当初から正体を明かすなどの3点を挙げた。
どれも言葉としてはもっともな内容だが、「過度な献金」の基準を記者から問われた勅使河原氏の答えには?然としてしまった。曰く「どの程度の金額を過度とするかは非常に難しい。1万円を過度と感じる人もいれば、1億円でも過度と感じない人もいる」と。こういう非常識な金銭感覚が、いわゆる霊感商法の温床になったのだと思わざるを得ない。さらに献金額が適切かどうかの判断は、各個教会の教会長の判断に委ねるというのだから、改革の実効性は疑わしい。
このたびの事件で明らかになった旧統一協会の問題が家庭崩壊を招くほどの過度の献金であったことは明らかであり、それを協会側も認識しているのであれば、もっと実効性のある改革があるはずだ。例えば一般にキリスト教には献金の目安として、収入の1割を献金として捧げるという「十一献金」がある。旧統一協会でもこれが奨励されているようなので、教会維持のための基本献金としてこれだけは記名献金とするが、それ以外はすべて匿名でしか受け付けないとかである。信者が学生である場合には、奨学金や親からの仕送りは収入にカウントしないということも重要だろう。
長年、旧統一協会の問題に取り組んできたある弁護士は「日本人の献金は韓国へはいっさい送金しない」という宣言も有効だという。これは過度の献金の根本原因である旧統一協会の教義(原理講論)の修正にまで踏み込むことを促す改革につながるだろう。
前回(8月1日付本欄)も述べたように、霊感商法の被害は日本に集中している。その理由は、東アジア諸国の中でも「日本は代々、天照大神を崇拝してきた国」として、また過去において「韓国のキリスト教を過酷に迫害した国」として「サタンの側の国家」であり、その償いを献金という形であらわすことが求められるからである。こうして旧統一協会の日本人信者は、自らの罪のみならず、民族の「偶像礼拝」の罪、韓国朝鮮に対して祖先が犯した戦争犯罪という三重の罪を背負っているとされるが、これこそが過度の献金の神学的根拠なのである。
先の記者会見で「献金の背景にある反日の教えを改めることはしないのか?」という質問に対し、勅使河原氏は「(統一協会は)反共ではあっても反日ではあり得ない」と強弁していたが、まったく空しい弁解としか聞こえなかった。
『原理講論』の総序には「(教典を)不動のものとして絶対視してはならない」と明記されている。「教典というものは(中略)それ以上の明るいともしびが現れたときには、それを機として、古いともしびの使命は終わるのである」と。このたびの事件を『原理講論』の「使命の終焉」として受け止めていただきたいものである。(つづく)
川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。