WCC総会レポート 気候変動、戦争めぐり四つの声明

©Mike DuBose/WCC

8月31日から9月8日まで、ドイツ・カールスルーエにおいて第11回世界教会協議会(WCC)総会が開催された。通常総会は8年ごとであるが今回は2013年韓国・釜山の第10回総会以来、9年ぶりの開催。開会式ではドイツ・大統領のフランク=ヴァルター・シュタインマイアー氏が基調講演を行った。

本総会のテーマは「キリストの愛が世界を和解と一致へと動かす」(原題:Christ’s Love Moves the World to Reconciliation and Unity)。開会式で司会を務めたケニア聖公会のアグネス・アブオム氏はWCCとエキュメニカル運動の基本は「人間関係」、「私たちはすべての独自性において互いに出会い、見知らぬ人の中から隣人を認識し、多様性の中に一致を見出す」のであると述べた。

開会祈祷ではWCC会長であり、ギリシャ正教会総主教のヨハネ10世が説教。「キリストがサマリアを通過することを選んだように、苦しんでいる中東を通過することを選ぶように」と呼びかけ、自分と異なる人々を無視するのではなく、シリア、レバノン、イラク、パレスチナの人々を排除することなく、キリストの愛した者たちとしての眼差しを持つよう奨励した。WCC総幹事代行のイオアン・サウカ氏はさまざまな世界の問題について報告したが、中でも気候変動、COVID-19(コロナ禍)、ウクライナ戦争を喫緊の課題として取り上げた。

©Albin Hillert/WCC

本総会では四つの公式声明と四つの覚書を発表した。公式声明は以下の通り。

①生ける地球:公平で持続可能な地球社会の追求
キリストの愛は肉体的、存在的、生態的に最も苦しんでいる人々のために深い連帯位と正義の探究を求めていると論じられた。

②平和をもたらすもの:世界を和解と統一に導く
「エキュメニカル運動における新たな対話」の必要性を認識し、「宗教間における対話とあらゆるレベルでの協力を通じて平和を形成するWCCとその加盟教会の約束」を強く認識し、世界的な停戦が呼びかけられた。

③ウクライナの戦争及びヨーロッパ地域の平和と正義
紛争のすべての当事者が国際人道法を遵守し、特に民間人と民間インフラの保護及び捕虜の人道的扱いについて論じられた。

④中東におけるすべてのひとのための正義と平和を求めて
集会では中東地域からの参加者による現地での被害状況(過激派からの攻撃増加など)の報告がなされた。そこでWCCも国家共同体におけるイスラエルの正統な地位と安全保障の確認の必要性について認識した。

覚書については以下の通り。

①朝鮮戦争の終結と平和構築に関する覚書
 「1953年7月27日に休戦協定に署名したのにもかかわらず、朝鮮戦争はいまだ正式に終結していない」と覚書は読まれ、WCC加盟教会とパートナーは連帯を新たにし、韓国の教会の提唱を積極的に支援し、同行するように要請している。

②西パプア情勢に関する覚書
 西パプア情勢における治安と人権の深刻かつ体系的な侵害について、WCCは懸念を表明している。

③2020年ナゴルノ・カラバフ戦争に関する覚書
 化学兵器とクラスター弾の使用、民間人、病院、公共インフラの標的化、その他紛争中に目撃されたあらゆる戦争犯罪や拷問、その他の残虐行為を改めて非難している。

④1915年のシリア人大虐殺
 この大虐殺において50万人以上のシリア・アラマー系キリスト教徒が命を落とした。覚書には「同じ歴史的、政治的文脈の中で発生したことであるが、一連の出来事はアルメニア人虐殺とは別のものとして理解される」と記されている。

今回、特に戦争問題への関心が高く、何度も討議されたテーマであった。他にも地球の持続可能性やコロナ禍などへの言及も多く、多種多様な議論がなされた。

©Gjermund Øystese/WCC

総会に参加した日本基督教団ブリュッセル日本語プロテスタント教会牧師の伊勢希氏のコメント

 第11回WCC総会のプログラムは綿密に練られており、朝の礼拝でのテーマがその日1日のテーマとなっていた。続く全体会議において演説とパネルディスカッションを通し、よりそのテーマについて考察、その後ホームグループに分かれ少人数で自身の意見を交換しあった。昼食を挟んでBusiness Plenaryが始まる。そのすべてのプログラムにおいて、私の中で心に残った言葉があった。「Justice」と「Together」という言葉である。それは中央委員会の報告に必ず記されていた言葉であり、またそれぞれのプログラムにおいてもよく耳にした。

特にこの「Justice」という言葉は、段々と聞くにつれ違和感を覚えるようになった。「Justice」とは神による正義、神のもとにある正義という意味で「神の正義と平和に向かって」という言葉などは人を鼓舞する。しかし、その言葉を語りながら現実はどうだろうか。戦争が起こり搾取、差別、環境破壊というさまざまな問題を抱えている。それは日に日に深刻化しているだろう。であるならば神の正義を語る前に、私たちは自分の中にある「正義」というものをしっかり捉え直さなければならないと考えさせられた。

そんな時、参加されている方から「多くの価値観に触れ、自分の考えと相手の考えを語り合い、その違いをどうすり合わせしていくことができるかを考えていく場がここなのではないか」という言葉をいただいた。WCC総会では多くの出会いが与えられた。今まで出会ったことのない国の方々とも出会うこともできた。さまざまな価値観に触れ、互いに自国の課題を語り合い祈りあうことができた。この総会において神の正義とは何かを一から語り合うことは難しい。しかし本総会に参加した一人ひとりがこの小さな出会いを重ね、大事にし、互いに覚え語り合いより知ろうとする時、そしてその新たな価値観を他に発信する時、この本総会の本来の意味が見出されるのではないかと感じた。

ヨーロッパ初の世界教会協議会(WCC)総会 「キリストの愛が世界を和解と一致に導く」 2022年9月17日

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