合同結婚式や霊感商法、山崎浩子さんの脱会騒動などで世間の注目を集めた統一協会。これらの報道に伴い、その活動の反社会性などが指摘されているが、日本のキリスト教界は、統一協会の問題をどうとらえたらいいのか。またこの問題を通して、キリスト教界は何を学びとることができるのか。脱会者からのアンケートをもとに、早くから統一協会からの救出活動にたずさわっている川崎経子氏(日本基督教団谷村教会牧師)と和賀真也氏(セブンスデー・アドベンチスト牧師、エクレシア会代表)にこの問題について語り合っていただいた。(編集局)
川崎――マインドコントロールで心を悪用
和賀――脱会後のケアが重要
司会 まずは、このアンケートをご覧になった感想からお伺いしたいと思います。
川崎 大体予想していたような回答内容でした。統一協会の中ではとてもいい人間関係があるんです。本当にきらきら輝くようなものを見せるんですね。そこに人生の目的、希望を見いだして入っていく。ですから彼らは本当に純粋で熱心なんです。それがマインドコントロールによって悪用されていくことが非常に悲しいことですし、この社会悪を絶対に許しておくことはできません。アンケートの中にも心の中が空っぽになってしまったという嘆きがありますが、脱会者はそういう苦しみの中にあるということです。キリスト教界はもちろん、世の中の人がもっと統一協会のことを理解して、対応していってほしいと思います。
和賀 十日ほどでこれだけの濃厚なアンケートが寄せられたということから分かることは、統一協会をやめた方々は依然として、真剣な模索状態にあるということです。喘(あえ)ぎの声と言いますかね、真剣な訴えがここに寄せられていると感じます。
司会 特に「日本のキリスト教界に望むことは」という質問に対して、
和賀 私も以前(八〇年)、同じようにアンケートをとりました。
司会 ということはキリスト教が人々のニーズに何も応えてこなかったと
和賀 厳しいことになるかも知れませんね。
司会 説得の成功のためには何が必要ですか。
和賀 説得の一番のポイントは信頼関係なんです。相手はこちらを悪党だ、サタンだと思ってますから、まず彼らとの間に信頼関係を築く。それができればほとんと解決は間違いないといっていいくらいなんです。もしその場で解決できなかった場合でも、次回の解決へとその信頼をつなぐことです。親御さんにも「人間が人間の心を変えるのではなくて、神様が変えて下さるんだから、今回がだめでも次の機会があります。それを信じて正攻法で行きましょう」と言ってるんですよ。
川崎 本当に信頼関係は必要ですね。(救出側は統一協会から)とても悪く言われてますのでね。会ってみて、おやっと思ってくれたら、そこから道が開けてきます。理性では分かるようになるんです。文鮮明はどうやらメシヤじゃなさそうだ。原理講論も間違いだらけだと。それでも抜け出せないのは統一協会の人間関係なんですね。ですから親の愛がそれに勝らなければならない。親が本人をどう理解してあげられるかにかかってくるんです。
司会 この問題は専門家に頼りがちなところがありますが、せめて教会で対応できないものでしょうか。
川崎 最初に相談を受けた牧師が最後まで、説得の牧師と共同でやって下さると一番いいと思います。そうすると新しい説得者を起こしていくこともできるし、また始めからかかわった牧師がその後のケアもできるわけですよね。私たちも資料をお送りしたり、お電話などで協力していきたいと思います。
私も最初は無手勝流でした。都留文化大学の学生が飛び込んできましてね。資料は何もなし、うろ覚えの知識で、「確か文鮮明というのは韓国人だったわね」という感じで…。その時は無我夢中でしたが、ことの重大さに驚きましてね。こんなに深く洗脳されてしまう
和賀 以前と今は違うんですよね。
川崎 私は三つハードルがあると思うんです。一つは説得前の家族のケア。次に説得。最後に脱会後のケア。一番大変なのが脱会を決めてからのケアです。だからこそ説得前の家族のケアも重要になるんですね。ですからこのようなケアのことでも、一般の教会でもっと考えていただけるとありがたいと思うんです。
和賀 統一協会から脱会するということだけでは解決にならない。問題は脱会後、それでは、
和賀――酸欠状態にある魂の渇き
川崎――教会牧師は命かけて
司会 日本基督教団とエクレシア会の姿勢でちょっと違うところは
川崎 そうですね。教団の働きは、
和賀 おっしゃる通りです。確かに簡单ではないですね。
川崎 私のところは二、三年経ってから、「洗礼を受けました」
司会 脱会者が洗礼を受ける率は、ある牧師の場合は約一%
和賀 エクレシア会は十三年になりますが(八十年に創設)、
司会 「日本のキリスト教界に望むことは」という質問に対して、
川崎 この問題は神学論争ではなく、現実の問題、
和賀 キリスト教界は社会
司会 アンケートを見て感じたこ
川崎 人間関係が大きいですね。
和賀 統一協会の青年たちは失敗をしても何も恐れず、
司会 「日本の社会に望むことは」という質問に対してはどうでしょうか。
和賀 この問題を通して見える日本の社会は、魂の酸欠状態がどれほどあるかということに対してあまり理解がない。経済大国を作り上げて、いい学校、いい会社に入れることに夢中になっている父兄(原文ママ=保護者*編集者注)の方々が多いんですね。そういう方々のご相談を受けて、解決しても、たまに聞こえてくる言葉があります。「毒(キリスト教)をもって毒(統一協会)を制するんだな」と、そのように何か利用する程度の教会であったり、牧師であったりする。日本の社会が、キリスト教に対してそういう認識しかないということはちょっと淋しい気がします。それだけに私たちはこの問題を通して、キリスト教界が何をなしうるかを逆に示し得るチャンスでもあると思うんですね。
川崎先生がおっしゃるように、書斎から現場に出るというのは同感ですね。教会というと普通、摩擦を避けたり、衝突を避けたりするきらいがありますが、それを恐れて、なすべきことをなさなかったら一体どうなのか。ボンヘッファーは「他者のために存在してこそ教会である」と言っていますが、返り血を受けても、魂の必要に応えていくということがどうしても必要だとつくづく思わされます。
川崎 教育の問題もあげられると思います。今は素直な子に育つのがいいかのように思われてますよね。でも私は素直が決していいことではない、自分の正しい判断を持って、それを正しく主張できないといけないと思うんですよね。教育も宗教も目指しているところは、個別化、自立だと思います。一人ひとりが自分の立場できちんと考えて、自立していくこと。これができれば他人をもまた尊重できるようになります。家庭にあっても、家族同士話し合う場がないんですね。統一協会の問題で初めて家族が本当に話し合う。子供がこんな問題を抱えていたのかと親がびっくりするわけです。人生の根本問題に触れるような話が家族でなされていないんです。
和賀 本当にそうですね。脱会者から出てくる異口同音の言葉は、どうして自分はこのことに気付かなかったのかということです。チェックすべき所をチェックしない。そういう本当の意味での批判精神を培う教育がなされていないのではないでしょうか。やはり統一協会問題というのは、単に統一協会を叩けば解決というのではなくて、もっとその下地にあるもの――社会とか学校、職場といったところにも要因があると思いますね。
川崎 私たちは本人にやめなさいということは一度も言いません。キリスト教の信仰を持ちなさいと推しつけもしないし、親にも「やめなさいと言ってはだめです」と言っています。本人の判断ですよね。ですから、資料を示して、判断をしてもらうことをやってるだけのことです。
和賀 本来、真理を求めて入ったわけですから、それが真理ではなかったということに気付くと、おのずからやめるのであって、統一協会が盛んに言うところの、洗脳とかマインドコントロール、改宗ではないんですね。
川崎 脱会者の方が教会に長く滞在されればされるほど、聖書に非常に興味をお持ちになるんです。三位一体とは、復活とはどういうことですかと。今うちでケアしている人たちの半分はそうですね。二回のうち一回はキリスト教の話、そして一回は統一協会の教義との間でもやもやしている部分、霊界をどう考えたらいいのか、永遠の命と霊界との違い、手相は当たるのか、それをどう考えるか、そういう話までやってるんです。
和賀 一般の教会のシステムだとなかなかそこまで事細かく、いつでも牧師に聞けるというシステムはあまりないんですよね。ただそれが大事だと思うんです。この問題を通して、本人だけではなく、本人の家族も聖書に対する関心が高まりますよね。これが素晴らしいことなんですよ。
川崎 「絶対に死ぬまで教会なんかに足を踏み入れることなんてないと思ってたが、今教会に来て、聖書を読むようになり不思議だ」と親は言いますよね。
和賀 今の日本のあの忙しい世代に伝道することが難しい中で、統一協会問題は聖書の世界を紹介するいい機会だと思います。
司会 本日はお忙しいところ本当にありがとうございました。さらなる活躍をお祈りしています。
*以上は(一九九三年)六月十一日(金)にキリスト新聞社で行われた、川崎氏と和賀氏の緊急対談の内容を編集局でまとめたもの。
川崎経子
かわさき・きょうこ 一九二九年東京都生まれ。五七年中央大学修士課程修了。八十年日本聖書神学校卒。現在、日本基督教団谷村教会牧師。著書『原理に入った若者たち――救出は早いほどいい』(原理運動を憂慮する会、八五年)、『統一協会の素顔――その洗脳の実態と対策』(教文館、九〇年)
和賀真也
わが・しんや 一九四二年千葉県生まれ。七二年日本三育学院神学科卒。セブンスデー・アドベンチスト金町教会、八王子教会牧師を経て、現在、エクレシア会代表責任者。著書『統一協会――その行動と論理』(新教出版社、七八年)。