【検証 〝協会〟の実相と教会の課題】 親の愛に心引き裂かれて… 月刊「舟の右側」編集長 谷口和一郎さん 2022年9月1日

 1980年代から連綿と続いてきた旧・統一協会による被害の実相が明らかになるとともに、宗教と政治をめぐる議論も活発化している。長年、統一協会をはじめとするカルト問題に携わってきた牧師たちの間でも、さまざまな意見が交わされる中、教訓として語り継いでいかなければならない課題も浮き彫りになってきた。今回の事件から私たち教会が学ぶべきこと、改めるべき姿勢について今号より連続で掲載する。

『原理講論』に見る行動原理
〝無限ループの中で奉仕し続ける〟

「この世界に絶対不変の真理はあるのか?」「絶えず人の目が気になるこの心を変えることはできるのか?」――そんな思いを抱えていた高等専門学校時代。同じ陸上部の後輩がクラブを辞め、学校も辞めると言い出した。どうしたのかと聞くと、自分は「ビデオセンター」に通っていて、そこで活動するのだという。とても冷静で性格円満、また頭の切れる子だったので、彼をそこまでの行動に駆り立てるものが何かを知りたくて、一度そこを訪れてみることにした。それが私の統一協会(現・世界平和統一家庭連合)との出会いである。今から40年ほど前、1983年初夏のことだ。

ビデオセンターでは、1時間ほど「統一原理」のビデオを観た後、コーヒーを飲みながらスタッフの誰かと1時間ほど会話をすることになっていた。そこで私は、自分が悩んでいることや将来への不安などさまざまなことを語り、スタッフは熱心に耳を傾けてくれた。統一原理の内容は、いろいろと疑問を生じるものだったが、スタッフとの会話の中で質疑応答もすることができた。そこでは「聖書」を用いて統一原理を説明していたのだが、聖書の中心的メッセージを知らない私は次第にその教理に惹かれ、そこのメンバーをも信頼するようになっていった。

その後、1日研修、3日研修、7日研修と進み、確か3日研修で文鮮明が「再臨のキリスト」だと明かされた。そして、飢餓や戦争の絶えないこの世界を変えていこう、「地上天国」を創ろう、との呼びかけがあった。「既成のキリスト教会は、自分たちだけが天国に行けばいいと思っていて、この社会を変えようとは思っていません」などの説明もあり、「確かにそうかもしれない」と思った。将来に夢を持てなかった私は、その大きなビジョンに心震える思いがした。ここに人生を賭けようと思った。そして、実家の両親に「学校を卒業したら、統一協会に行きます」と手紙を書いた。

両親は驚き、地元の牧師に相談を持ちかけた。そこからは脱会させたい側と引き留めたい側のせめぎ合いとなり、学生寮には毎日のように母親から電話がかかり、また毎日のように統一協会のスタッフから電話がかかってきた。手紙も双方からひんぱんに届いた。親の愛情と、統一協会側の情熱、それがともに真実なものに思えた。「心が引き裂かれる」という言葉があるが、まさに心が二つの手で引き裂かれていく、そんな激しい痛みをリアルに感じていた。あとどれぐらい自分の精神状態はもつだろう、とも思っていた。

そんなある日、私は不思議な体験をした。その時は特に目的もなく、部屋のベッドに寝転んでおもむろに聖書(口語訳)を開いたのだが、そこにこう書かれていた。

「主はこう言われる、……おおよそ主にたより、/主を頼みとする人はさいわいである」(エレミヤ書17章5~7節=口語訳)

ふいに、このことばが「私への語りかけ」であると感じた。目から鱗が落ちたというか、「神様を信頼していいんだ」と信じることができた。統一協会では、神は人間の不従順と堕落によってすべてを奪われた存在、かわいそうな存在として説明される。しかしここでは「主にたよれ、主を頼みとせよ」と言われている。むしろ、自分の力を頼みとする者は、のろわれるのだと。私の中で「神観の逆転」が起こった瞬間だった。

その後、統一協会員の脱会活動を行う牧師との対峙を経て、統一協会を離れるに至る。就職活動もしなかった私は、高専を卒業後、「とにかく聖書の勉強がしたい」と思って自らキリスト教会の門を叩き、アルバイトをしながら聖書の勉強を始めた。私はずっと「真理とは何か?」という問いを立てていたのだが、イエスという存在が真理であれば、その方について行くことが私を真理に近づけてくれる、その真理に包まれていく、との確信を得た。私はイエスが神の子キリストであると信じ、山間(やまあい)の渓谷で洗礼を受けた。真理を求める長くて苦しい旅は終わりを告げ、キリストの似姿に変えられていく新しい旅が始まった。

脱会後、渓谷で洗礼を受けた谷口さん(右)

クリスチャンになってすぐ、所属教会の牧師の依頼もあって統一協会員の脱会活動を手伝うようになり、それを4年ほど続けた。100~200人ほど説得したと思う。やり方はシンプルで、『聖書』と『原理講論』を並べて、原理講論の聖書の引用がいかに文脈を無視したものであるかを説明していくというもの。それで何十人もの人が統一協会を辞めていった。

統一協会は、再臨のキリストは韓国に生まれ、韓国を中心にして世界が一つとなり、言語も韓国語に統一されていくとする。『原理講論』(第16版)には次のように書かれている。「人類の父母となられたイエスが韓国に再臨されることが事実であるならば、その方は間違いなく韓国語を使われるであろうから、韓国語はすなわち、祖国語(信仰の母国語)となるであろう。従って、あらゆる民族はこの祖国語を使用せざるを得なくなるであろう。このようにして、すべての人類は、一つの言語を用いる一つの民族となって、一つの世界を造りあげるようになるのである」(p.604)

これはつまり再臨のキリストを自認する文鮮明=韓鶴子が王として治める世界であり、彼らはそれを「地上天国」と呼ぶ。アメリカや日本の政界への積極的な関与も、この目的のために為されている。アメリカのトランプ前大統領、日本の安倍元首相の祝辞なども、彼らからすれば、各国の元首が文鮮明=韓鶴子を世界のリーダーとして認めていく一つのプロセス、という理解になる。

統一協会員がなぜあれほど熱心に活動し、また全財産をささげてしまうのか。その動機も『原理講論』を読めば見えてくる。このように書かれている。「神がなさる95%の責任分担に、その中心人物が担当すべき5%の責任分担が加担されて、はじめて、完成されるように予定されるのである」(p.243)「しかし、これが人間においては100%に該当するということを知らなければならない」(p.244)。つまり、神の御心の実現は、人間が100%の努力をした結果だと教えられるので、彼らは必死で活動をするのだ。しかし、人間に100%はない。

多くの人にとって奇異に映る「合同結婚式」は、人間の堕落の経路を逆にたどろうとするところから生まれている。彼らは人間の堕落を次のように説明する。「神は霊的部分と肉的部分をもって、人間を創造されたが故に、堕落においても霊肉両面の堕落が成立した。天使とエバとの血縁関係による堕落が霊的堕落であり、エバとアダムとの血縁関係による堕落が肉的堕落である」(p.107)ここで言う「天使」は「サタン」を意味し、「血縁関係」とは「性関係」のことである。つまり、エバがサタンと霊的な姦淫を犯した後、アダムと肉的な関係を持ち、そのことが人類の堕落の始まりだというわけだ。そして回復の道は、救世主メシアが選んだ相手と結婚(合同結婚)することで罪のない子が生まれ、罪のない世界が広がり、地上天国が現れてくるとする。

以上からご理解いただけるように、統一協会は極端な韓国中心主義に立ち、信者たちは無限ループの中で奉仕し続けざるを得ない教理形態を取る。端的な言い方をすれば、偽キリストが自分の王国を造り上げるために多くの日本人を奴隷化しているということである。その計画に、日本政府が加担していいはずはない。

(たにぐち・わいちろう)

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