【となりの異教徒 妻は寺娘】 東の国からはるばると Ministry 2019年夏・第42号

イラスト=肉村知夏

 お寺の娘と神学生がキリスト教系大学で出会い、結婚して子育てに奮闘する――そんなありそうでなさそうな凸凹夫婦の日常から、「共生」を実践する上でのヒントを探る。

クリスマスの時期になると、教会やキリスト教系の幼稚園などによっては、「ページェント」と呼ばれる演劇が行われるところがある。イエス・キリストの誕生物語を題材にした宗教劇のことで、主に子どもたちが、マリアとヨセフ、天使などさまざまな登場人物に扮して、台詞を言ったり賛美歌を歌ったりする。聖書の表現とは少し違ったり、マリア役の子が5人ぐらいいたりすることもあるが、幼い子どもたちが一所懸命練習してきた演技や歌を披露している姿はとても微笑ましい。

私と妻は、その「ページェント」がキッカケで親しくなった。私が大学2回生だった時、当時在籍していた神学部では、長年活動を休止していた「神学部学生会」(学生自治会)が復活し、その活動の一環として、ページェントの上演が計画されていた。日ごろ「神学」を学んでいる大学生たちによる〝本気の〟キリスト降誕劇である(聖書学の教授の〝目〟があるため、特に「脚本」の制作には細心の注意を要した)。そんなページェントの出演者として、私と、そして当時1回生であった明香が選出されたのである。

私が「ヨセフ役」、明香が「マリア役」に抜擢され、そしてそれによって2人の距離は急激に縮まることになった! ……のではない。私がヨセフを演じることになったのは事実。けれども、明香については、マリア役どころか天使ガブリエル役でもなく、何と、「東方の博士たち」、別名「三賢者」のうちの1人であった。重要な役ではあるけれども、肝心のヨセフ役である私とは物語の最後辺りでチョロっと絡む程度の役でしかなかったのである。当時の明香はあまり目立たない存在で、学部ラウンジの隅の方で1人ヘッドホンをしてゲームをしているような学生だった。しかし、演技の練習が始まるとすぐ、私も含め共演者の多くは彼女の隠された才能に驚かされることとなった。発声、滑舌、表現力……。

それもそのはず。彼女は昔から「声優」に憧れており、また、大学入学後は演劇サークルに所属していたのである。練習以外の時間も、私は明香と親しく接するようになった。演技中の彼女の輝いている姿も魅力的ではあったが、何よりも彼女と話している時の天真爛漫な笑顔に惹かれたのだろうと思う。

「東方の博士たち」というキャラクターは、他の登場人物たちとは違い、「異邦人(異教徒)」である。遠く離れた異国の地より、イエスの誕生を知らせる星を手がかりにやってきた謎の人物たちとの出会い。そのようなお話が、新約聖書の〝最初〟に記されていることは、たいへん興味深いことである。同様に、我々凸凹夫婦の人生もまた、実に不思議なことではあるのだが、神学生演じる「ヨセフ」と寺娘演じる「博士」との出会いから始まることとなったのである。

それにしても、明香はこの時、「三賢者」のうち、どの役を演じていたのだろう。「没薬」を持つ役…だったかな。

柳川 真太朗
 やながわ・しんたろう 1989年、ノンクリスチャンの家庭に生まれる。2007年4月8日受洗。2014年3月、関西学院大学大学院神学研究科前期博士課程修了。同年4月、日本基督教団 名古屋中央教会担任教師。2017年4月より、名古屋学院大学 キリスト教センター 職員(日本基督教団教務教師)。

柳川 明香
 やながわ・はるか 1990年、曹洞宗の寺の長女として生まれる。2013年3月、関西学院大学神学部卒業。結婚後、夫・真太朗と共に名古屋へ。牧師・司祭用カラーシャツ工房『HARCA』経営。

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【Ministry】 鼎談「今ドキの神学校事情」/ルポ「たとえばこんな牧師のカタチ」 42号(2019年9月)

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