プーチンは土地以上にウクライナの宗教的魂を欲している

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By Kremlin.ru, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=115643698

ロシアの侵略者が支配を望む戦場は、ウクライナの物理的な風景だけではない。過去10年間、両国は領土ではなく、ウクライナの宗教的志向をめぐって別の戦いを繰り広げてきた。ロシアがウクライナを占領すれば、宗教の自由も犠牲者の一つとなるだろう。「レリジョン・ニュース・サービス」が報じた。

ウクライナは少なくとも10世紀にさかのぼる古い国家であり、その根底には東方キリスト教のアイデンティティがある。ヨーロッパとアジアの交差点に設立されたウクライナは、ロシアに次ぐヨーロッパ第二の国である。ウクライナではローマ・カトリック、福音派、イスラム教、ユダヤ教など多くの宗教が自由に活動しているが、人口4300万人のうち圧倒的にキリスト教が多く、正教が主流である。

しかし問題は、どの正教会なのか。

ロシアのプーチン大統領は、ロシアとウクライナに共通する正教会の性質を利用して、より緊密な連携を主張している。ウクライナは、東方キリスト教のいくつかの表現が実践されている点でユニークである。一方はロシア正教会とそのウクライナの教派であるウクライナ正教会――モスクワ総主教座であり、もう一方はウクライナ正教会――キエフ総主教座である。

プーチンはロシアの威信を回復するため、ロシア正教会をロシアのアイデンティティの中心に押し上げ、同時にモスクワ総主教座の独立性を損ねるようなことをしてきた。プーチンのウクライナ構想には、モスクワと同盟関係にあるウクライナ正教会――モスクワ総主教座の潜在的な宗教的ソフトパワーを活用することも含まれていた。「オーソドックス・タイムズ」によると、ロシアは偽情報キャンペーンを使って両教会の対立をあおった。

これらの取り組みは2018年後半、ウクライナ正教会=キエフ総主教座が正教会のエキュメニカル総主教に自主独立を求めた時、頭打ちになった。ロシアの干渉を恐れたキエフ総主教庁は、自民族の地位による独立を達成すれば、OCU-KP(ウクライナ正教会=キエフ総主教座)がモスクワ総主教座から脱却し、その権威下に身を置くことができると考えたのだ。

ウクライナ正教会が自由になることは、外国の影響下からの独立を宣言することであり、より大きな宗教的自由を達成することだった。当時のウクライナ大統領ペトロ・ポロシェンコは、自主独立はウクライナがモスクワからヨーロッパに軸足を移したもう一つの例であると宣言した。これに対し、ロシア正教会はエキュメニカル総主教との関係を断ち、正教の分裂を危惧した。

戦争を目前に控え、こうした宗教的な争いは当分、後景に退くだろう。しかし、どちらの側でも人々は信仰に目を向けている。攻撃が始まった2月23日には、国中で祈りを捧げるウクライナ人の画像がツイッターに投稿された。その他、正教会以外のキリスト教徒は、両側のキリスト教徒がいかに戦っているかを指摘した。「ロシアから戦車が転がり落ちてきて、ロシア正教会の司祭が戦車を祝福している」「ウクライナ正教会の司祭がウクライナ兵を祝福して、ロシアと戦わせている」

このことは、ウクライナの宗教生活の未来に何を意味するのだろうか。プーチンはNATOの拡張などを詭弁とし、ウクライナの西側への再方向転換を恐れている。しかし、ウクライナの宗教的な方向転換も懸念される。欧州人民党のドナルド・トゥスク総裁は、プーチンの「要求はウクライナ正教会とそのモスクワからの独立にも関係している」という情報筋の言葉を引用している。事実上、プーチンが求めているのは、ウクライナの完全な降伏なのだ」。求められる降伏は、物理的なものであり、精神的なものでもある。

確かに、ロシアがウクライナを支配すれば、人道的な災害と人権の破滅につながる。そして、ウクライナの宗教の自由に対する影響は悲惨なものになるだろう。米国政府は、ロシアを国内の宗教の自由に関して世界で最悪の国の一つに位置づけている。

もしロシアの軍事作戦が成功すれば、モスクワはウクライナ正教会の独立を認めないだろうし、ロシア正教会の系列に戻さざるを得なくなる可能性もある。エホバの証人、イスラム教徒、布教団体に対するロシアの退廃的な扱いは、国全体に押し付けられる可能性が高い。

ウクライナのユダヤ人社会に対する懸念も存在する。米国ホロコースト記念館は、プーチンが戦争の口実としてホロコーストを「利用」していると非難した。「博物館は、ウクライナに住む何千人ものホロコーストの生存者を含め、ウクライナ国民と共に立ち上がる」と24日に発表された声明で述べている。

結果がどうであれ、先行きは不透明だ。プロイセンの戦略家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、「戦争とは、他の手段による政治の継続である」と言った。戦争は、おそらくプーチンが望んだ唯一の結果だったのだろう。しかし、ウクライナの信教の自由やその他の人権への影響は、天秤にかけられたままである。

(ノックス・テームズ氏は、米国務省の元宗教的少数者特使で、オバマ、トランプ政権時代に在籍していた。21世紀の迫害を終わらせるための本を執筆中。ツイッター:@KnoxThames 。本稿で示された見解は、必ずしも「レリジョン・ニュース・サービス」の見解を反映するものではない)。

(翻訳協力=中山信之)

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