2021年9月15日から11月30日にかけて東京の台北駐日経済文化代表処台湾文化センター(以下、台湾文化センター)で台湾国家人権博物館特別展「私たちのくらしと人権」が開催された。台湾の国家人権博物館(以下、人権館)は2018年に正式オープンした新しい国立博物館で、台北市郊外の白色テロ景美紀念園区と、台東県の離島にある白色テロ緑島紀念園区の二つの博物館によって構成されている。
いずれも戦後の戒厳令期に政治犯を収容していた監獄の建築を復元・再利用しており、建築物の持つ独特な冷たい雰囲気は当時の暗い雰囲気を生々しく現代に伝えている。ひまわり学生運動、同性婚の合法化、クリーンエネルギーへの転換などにより今日の台湾は民主化が進んでいるとイメージされるが、当時と現在とでは隔世の感がある。コロナ後に台湾を訪問する機会があれば、参観されることを強くお勧めする。
今回の展示は人権館が台湾文化センター、日本台湾修学旅行支援研究者ネットワーク(以下、SNET台湾)が共同で開催したもので、世界の人権、日常の人権問題に加えて、戦後台湾で発生し、数万人が犠牲になった二・二八事件や1949年から38年続き多くの政治犯を生み出した国民党による「白色テロ」と、それに抵抗した1970~80年代の民主化運動について分かりやすく解説している。何よりも特徴的なのは海外、特に日本との連帯について多くの資料と説明が割かれていた点である。
そこで紹介されていたのは「台湾の政治犯を救う会」(以下、救う会)である。1977年から94年にかけて活動していた救う会は、戒厳令下で情報統制が行われる当時の台湾から情報を集め、ニューズレターを発行し日本社会に伝え、集会やデモなどの活動をしてきた。
救う会にはいろいろな人物が関わっていたのだが、代表世話人が女子学院院長やキリスト者政治連盟委員長などを歴任した平和運動家である大島孝一であったように、キリスト教関係者が一定数を占めていた。本連載でもこれまで説明してきたように台湾基督長老教会(以下長老教会)は70年代以降の台湾の民主化運動をリードした代表的な団体の一つである。当時台湾で何が起きていたのかを、日台のキリスト教がそのネットワークを通じて海外に持ち出し、国際社会に伝えるという活動の一端を担っていた。1979年12月の美麗島事件の際に当時の長老教会の総幹事であった高俊明牧師が逮捕されたことなども詳細に報告されている。しかし、こうした重要な役割を担っていた救う会だが、メディアへの露出も研究もされていないため、不明な点も多く、今後の調査報告が待たれている。
残念ながら東京での本展示はすでに終了しているが、2月12日から17日にかけて札幌で北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院附属東アジアメディア研究センターとの共催で開催予定である(詳細はウェブサイト)。また、展示の内容についてはSNET台湾のホームページ(https://snet-taiwan.jp/twhr/)で公開されているので、合わせてご覧いただきたい。
藤野陽平
ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学――社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。