神学校座談会「生涯通した継続教育こそ~日本宣教の明日をどう描く?」後編 大阪聖書学院×関西聖書学院×お茶の水聖書学院

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大阪聖書学院の授業風景

 長引くコロナ禍で多くの神学校が授業スタイルの変更を余儀なくされた。とりわけ昨年から今年にかけて入学し、流動的な学習環境に翻弄され、苦難の時期が続いた神学生も少なくなかったのではないだろうか。10月以降、ようやく感染拡大が収束に向かい、従来通りの授業が可能になりつつある。この間の経験から見えてきた課題と可能性とは? 「ポストコロナ」の時代に教会が何を希求すべきか。伝道者養成の最前線に携わる神学校の現役教師に話を聞いた。(司会・構成 松谷信司)

【参加者】
岸本大樹(大阪聖書学院=OBS=学院長、大阪クリスチャンセンター理事長、キリストの教会 旭基督教会牧師)
きしもと・だいき 大阪市生まれ。茨城キリスト教大学、大阪聖書学院、東京神学大学大学院で学ぶ。恵みキリストの教会、めじろ台キリストの教会での牧会、キリスト者学生会(KGK)関西地区主事としての学生伝道を経て、現職。

髙橋めぐみ(関西聖書学院=KBI=学院長)
たかはし・めぐみ 大阪府堺市生まれ。大阪女学院短期大学、関西聖書学院卒業。共立基督教研究所修了(宣教学)。2000年から17年間、アンテオケ宣教会を通してインドネシア・カリマンタン島に宣教師として遣わされ、ATI神学校教師、プニティ教会協力、奥地中高生寮伝道の働きを担う。2018年より関西聖書学院で奉仕、20年4月より現職。

山村 諭(お茶の水聖書学院=OBI=教師会書記)
やまむら・さとし 聖書宣教会聖書神学舎卒業。日本同盟基督教団北秋津キリスト教会、教団総主事を経て、2017年から茅ヶ崎同盟教会牧師。同教団理事・社会局長。2020年から現職。趣味は「食べること・走ること・登ること」。

神学校座談会「コロナ禍で伝道者養成~日本宣教の明日をどう描く?」前編 大阪聖書学院×関西聖書学院×お茶の水聖書学院 2021年11月11日

宣教の担い手育てるために
牧師の働きを信徒にゆだねていく意識改革を

――いわゆる「教派神学校」では、入学生が減って存続が危ぶまれているところも少なくないと聞きます。「牧師になりたい」というニーズと、「神学を学びたい」というニーズは異なるのでしょうか。

岸本 OBSは創立当初から、牧師を志す方だけでなく、信徒として学びたいという方には広く門戸を開いています。もちろん学ぶ中で牧師になろうと決心する方もいますが、今日のような「牧師不足」の時代に、信徒の立場で教会に仕えるという人がもっと増えていいと思います。

山村 OBIの場合、卒業生の中には単立の教会で牧師をされる方もいますし、改めて神学校に入り直して牧師を志す方もいますが、あくまで信徒教育が中心です。受講の動機はさまざまですが、信徒にとっても牧師にとっても学べる機会が多いに越したことはないと思います。

髙橋 KBIには1年コース、3年コース、3週間コースの選択肢があります。最初から3年と決めて入学する方もいれば、まずは3週間でという方もいます。共通して献身の思いはあると思いますが、入学当初は牧師になる自信はないという学生もいるので、「神様からの召しなので、何ができるかと悩む必要はありません」と励ますようにしています。他の神学校への入学を希望しつつ挫折した学生を受け入れたケースもあります。

お茶の水聖書学院のオンライン授業

変わりゆく時代の中で生きた言葉を
教派性大事にしつつ一緒に学ぶことはできる

――今後、力を入れたい科目などはありますか?

岸本 卒業生の継続教育ですね。特に説教、牧会について定期的に学ぶ機会を提供したいと願っています。若い牧師が説教の課題に直面するのは、在学中よりも、むしろ卒業して現場に出てからです。私の所属するキリストの教会でも牧師が定期的に研修する機会がなく、自分で何とかするしかありません。自戒も込めて言うと、伝道不振の主な要因は牧師の説教ではないかと思っています。人間的に課題のある牧師も少なくないですし……。

 私はかつてキリスト者学生会(KGK)の主事として働いたことがありますが、牧師になった卒業生たちの苦労話をよく耳にします。彼らの傍らにあって話を聴き、共に祈る相手として、所属教団の牧師と共に、所属教団以外の牧師も必要だと痛感しています。若手の牧師たちが牧会上の悩みを共有し、祈り合える何らかのネットワークが必要です。神学校だけではなかなか難しい。

髙橋 KBIでは、前学院長の大田裕作先生が「卒業生援護室」と謳って卒業生のカウンセリングなどを担っています。また卒業生による「フレンズの会」があり、同学年が自主的に集まる事を促進する「地域シェア」と、3年に1回全体が集まる「全体シェア」があり、フォローし合える同窓の場となっています。また、教会開拓に特化した「教会開拓刷新コース」として2年間計16回の継続した学びもあります。

 学生を見ながら必要性を感じるのは、コミュニケーションとサーバントリーダーに関する学びです。サーバントリーダーは教会の閉そく感を打破できる鍵だと考えています。現代社会でリーダーシップのあり方が見直されていますが、教会でも信徒の力を結集できる聖書的なリーダーシップが必要だと思います。

 また私たちの学院は宣教に重きを置いていますが、そもそも福音が相手に本当に伝わっているのかと自省します。「神、罪、救い」とすぐ語ってしまいますが、まず相手を知る事、相手にとって福音とは何かを考えること、そしていかに工夫して伝えるかを考えるコミュニケーション能力が求められます。今、そうした内容を学問的に教えられる先生を探しているところです。来年の標語も、個人的には「福音の伝達」にしたいと考えています。

岸本 若い神学生を見ていると、物事を白か黒で単純化しがちだと思います。悩むからこそ成長につながるはず。パウロだってそうです。一緒に悩まなかった私たち年配者の責任かもしれませんが、悩みながら神様と格闘しながら次のステップに歩めるということを示していきたいですね。神様を信じさえすれば万事OKという信仰から、そろそろ卒業しなければなりません。

山村 おそらく説教学、宣教学、カウンセリングの科目で補っているとは思いますが、コミュニケーション論などの形では取り上げていません。OBIのカリキュラムは、聖書・神学・歴史・実践を総合的に学ぶことを大切にしています。

 ただ、継続教育という意味では「牧師研修コース」を始めました。ベテラン牧師を中心に後輩たちが対話を通して共に考えるという学びで、45人ほどの牧師が登録しています。今回は坂野慧吉先生(日本福音自由教会協議会浦和福音自由教会牧師)を招き、来年は内田和彦先生(日本福音キリスト教会連合前橋キリスト教会牧師)を予定しています。首都圏の牧師は研さんを続ける環境に恵まれていますが、特に地方の牧師は共同の学びの場に飢えていると聞きますので、こうしたオンラインならではの学びが活用されることを願っています。

――信徒も交えて、日本宣教の将来像を考える必要がありそうです。

岸本 OBSでは月1回、年に12回の「信徒説教者コース」を幾つかの地域で行ったことがありますが、そこから信徒説教者が何名か生まれています。これから「一教会一牧師」ではなく複数牧会が当たり前になる時代を迎えるにあたって、たとえ礼典の執行はできなくても、説教をはじめさまざまな牧師の働きを信徒にゆだねていくという意識改革が必要だと思います。

山村 同感です。健全な教理を身につけて信仰を語れる信徒が増えることはとても重要です。イエス・キリストを力強く証しすることのできる信徒が増えていくことが、教会の活性化の鍵ではないかと思います。そうしたキリスト者の育成が一教会では難しいならば、私たちのような教育機関が、諸教会との協力の中で、その役割を果たすことができればと願っています。

髙橋 私は、牧師はあまり素晴らしすぎる牧師ではない方がいいと思います。「あんな牧師先生にはなれない」と信徒が引け目を感じるよりは、「足りなくてもいい」「自分の賜物をもって補い合う」という感覚が必要ではないでしょうか。神様との個人的な関係は理解されやすいですが、横の関係でキリストの体として一体であるという実感が足りないように思います。教会のために何かやりたいと思いながらできないと思い込んでいる教会員は多いので、私たちは足りないように造られ、それは組み合わさって一つの体となるためであるという事を知る必要があると思います。私自身もそのつもりで、助けてもらいながら学院長を務めています。

山村 憧れを抱くような素晴らしい先生もいらっしゃると思うのですが、誰にでもどこか欠けや弱さがあります。やはり神学教育においては対話が重要で、あの先生にもこんな一面があると知った上で、福音が人を生かすということをより深く学び、語る言葉を得ることができます。弱さも含め互いに認め合える対話によって、人間理解が深まり、それが説教の言葉にも直結すると思います。

関西聖書学院の授業風景

――大学の講義でも対話型・参加型のアクティブ・ラーニングが導入されています。

岸本 神学校での講義も含め、牧師の説教が一方的になりがちなのは、聞き手のことを考えていないからです。注解書を調べて発表する宿題のような説教を聞くことが時折ありますが、まったく対話的ではありませんね。

山村 説教者の育成には時間がかかりますよね。神学校を出て試験にパスすればできるものではありません。私自身の経験からも、年齢層の偏った限られたコミュニティだけに向き合ってしまうと、人間理解が狭くなって、時代に対して開かれた言葉にならないという傾向があり、説教に関しては絶えずもがいています。変わりゆく時代の中で、生きた言葉、直面している問題にアンテナを張って洞察していかなければ、伝わる言葉は獲得できないのではないかと思っています。

岸本 コロナ禍を経て、インターネットの可能性が格段に広がったことは結果としての恵みだと思います。都市部と地域をつなぎ、関係している無牧の教会とメッセージを共有することもできます。また、神学校間の協力にも期待しています。近隣の学校が、それぞれのアイデンティティや教派性を大事にしながら、共通に学べる部分を一緒に学ぶことができるはずです。OBSでも今はそのことを模索中です。それぞれの神学校でも得意不得意があると思いますので、良い形で補い合えると思います。

山村 OBIはそもそも各神学校の先生方に来ていただいている学校ですので、十分に可能性はあると思います。
岸本 よろしくお願いします。学生たちにとっては本で読むだけでなく、著者本人の話から直接刺激を受けることも大事だと思いますので、メインラインを含めた学校間の協力関係が、さらに深まることを願っています。

――今後の予定、告知などがありましたら教えてください。

山村 OBIは来年から3学期制に移行して、1学期10回のコースにすることで講師のバリエーションも充実させたいと願っています。聖書や神学を学びたい、教会でお役に立ちたい、クリスチャンとして成長したいと願う人々の必要に応えることのできる学びの環境や制度の整備を進めていきたいと考えています。

岸本 来年はオンラインでいくつかの授業を公開したいと考えています。その一つはギリシア語文法で、週に2回、オンラインで配信予定です。担当するのはアテネで本場のギリシア語を学んだ教師です。

髙橋 KBIは今年60周年でその記念事業として、現在「IT・映像機器拡充計画」を進めています。具体的にはイベントのライブ配信、オンライン授業、授業の映像配信、オンライン会議の充実です。コロナ禍に主は許容的み手をもって、インターネットを用いても宣教を推し進めておられると思います。

――ありがとうございました。

大阪聖書学院の校舎

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