ヨウ・ケンキョウ(William Yeung Kin-keung) 9月15日、コロナ感染により英エディンバラの病院で逝去。63歳。
9月18日、英国香港基督教会は同教会の創立者で主任牧師だった楊建強氏が9月15日に逝去したことを報じた。アメリカのカンバーランド長老教会マガジン(Cumberland Presbyterian Magazine)は、同氏の死因は新型コロナウイルスであったことを明らかにしている。
https://www.facebook.com/cumbpresbymag/posts/1200887183754051
楊氏はカンバーランド長老教会・香港中会で牧師として31年間にわたり仕え、中会議長職をはじめ、同教派の日本中会との交流の牽引役、香港基督少年軍(Hong Kong Boys’ Brigate[ボーイスカウトのような組織])のチャプレンなど、さまざまな働きを担っていた。
2019年の「逃亡犯条例改正反対運動」のころから積極的に抗議デモに参加し、2020年5月の「香港牧師ネットワーク」の発足と「香港2020福音宣言」(福音宣言)の起草に中心的に関わった。香港国家安全維持法(国安法)が施行される直前、楊氏は対談の中で、教会が問わなければならないのは「いかに存続するか」ではなく、「なぜ存在するのか」であると述べ、国安法下において教会が「社会において、かにして神の国の価値観を実践していくか」と、教会の存在意義を改め提議していた。
〝教会はなぜ存在するか〟 「逃亡犯条例」改正反対運動と「福音宣言」の背景 香港紙「時代論壇」インタビューより 2020年8月25日
2020年7月、国安法施行後、親中派メディアが香港牧師ネットワークが製作した「福音宣言」の宣伝動画を「国家分裂を策動するものであり、国安法に違反している」と批判し、楊氏を含む複数の牧師たちを名指しで糾弾した。その後、楊氏はカンバーランド長老教会香港中会の牧師職を引退し、数ヶ月間台湾に身を寄せた後、2021年1月にイギリスのエディンバラに移住した。
イギリスのエディンバラをはじめ各都市に香港人移民が急増していたこともあり、楊氏は同年5月、エディンバラ近郊のコーストーフィン・コミュニティー・チャーチ(スコットランド合同自由教会/United Free Church of Scotland)を借用し、「エディンバラ香港基督教会」を設立。移民香港人のための広東語礼拝を開始した。設立当初、楊氏は同教会について、カンバーランド長老教会に所属するが香港中会とは直接の関係がないと語っている。また、同教会は「福音宣言」を「教会の理念」、「使徒信条」を「教会の信仰告白」と定めている。
5月2日の最初の礼拝には大人と子ども合わせて約50人の出席者があり、その後も出席者は増加し続けていた。エディンバラ以外にも香港人移民が増加していたため、楊氏は9月よりグラスゴーとシェフィールドでも香港人のための広東語礼拝を起ち上げ、「英国香港基督教」というネットワークを形成し始めたところだった。これらの教会は楊氏が責任を持ちつつ、イギリスに移民してきた他の香港人牧師たちに説教奉仕の協力を依頼し、さらにはオンライン礼拝の形式で香港からも説教者を招く方法で礼拝を守っていた。
楊氏の訃報を受けSNS上には、同氏が愛情と正義にあふれた牧会者であったことを伝えるさまざまなエピソードと共に、その死を悼むメッセージの投稿が相次いだ。楊氏と長年の交友がある唐澤健太氏(カンバーランド長老教会国立のぞみ教会牧師)は自身のブログで「William先生の急死は『なぜ』という思いを拭えない。でも、William先生はいま神の国で『よくやった忠実なしもべよ』と冠をいただいていることを私は信じる」と綴っている。
9月19日にエディンバラ香港基督教会のオンライン礼拝で説教した陳恩明氏(香港・基督教豊盛生命堂顧問牧師)は、楊氏の急逝の知らせを受けて複雑な心境であることを吐露しつつ、「しかし私はこう思うのです。楊牧師はスコットランドの地で安らかに召されました。そこは、長老主義と民主主義の故郷の地(the land of Presbyterianism, the land of democracy)であり、召されるのにふさわしい場所だったのではないか」と述べ、同氏がスコットランドの地で召されたことにも神の摂理があることを語った。
葬儀や教会の今後の詳細については、現時点でまだ公にされていない。アメリカのカンバーランド長老教会マガジンは、楊氏の未亡人をはじめとするその家族、また同氏が牧会していた教会の群れのための祈りを呼びかけている。(文責=松谷曄介)