ウイグル人権問題へ国際社会から注目が集まる中、4月23日台湾でもウイグル支援の超党派議員連盟「台湾国会ウイグル連線」が発足した。近年、日本から注目を集めるようになった台湾だが、在台イスラームやウイグルについてはあまり知られていないだろう。
台湾最古のムスリムは清朝期に福建省から移住した漢人の回教徒であるが、子孫らはイスラームの信仰を放棄しており、今日の在台ムスリム社会とのつながりはない。台湾には10のモスクがあるが、中心は戦後中国から台湾へと国民党と共に移住した外省人と呼ばれる人々の中のムスリムである。彼らに中東からの移住者、留学生、インドネシア人労働者などが加わり、在台ムスリム社会はマジョリティである本省人以外の多様な人々で構成されている。しかし、力を持っているのは外省人ムスリムであり、国民党と良好な関係を維持している。
外省人ムスリムの中のウイグル人はどういった人々なのか。写真下は2015年3月に行われた反国民党のデモのもので、ウイグル支援団体も参加していた。在台ムスリムが親国民党であるなら、ウイグル人はどうして参加しているのだろうか。
現在、台湾にどれほどのウイグル人が暮らしているかといえばごく少数で、この支援団体も会員の大多数はウイグル人以外の支援者であるようだ。少数の在台ウイグル人を理解するために2人のリーダーを紹介したい。近年の在台ウイグル人の代表人物は新疆のグルジャ出身、北京で育ったウルケシ(「ウーアルカイシ」とも。1968年~)であろう。学生リーダーの1人として天安門事件に参加、事件後に渡米、台湾人と結婚、1996年に台湾に移住し、台湾でも政治活動を行っている彼は、ウイグル人アイデンティティを持ちつつ、台湾の国籍を取得しており、台湾人でもあるとしている。中国に対してもその伝統や文化などは良いと肯定的に扱うが、自由を制限し、ウイグル人を弾圧する共産党を否定的に捉えている。彼も「台湾国会ウイグル連線」発足時に顔を見せており、ウイグル人として台湾からの支援に感謝の意を伝えた。
過去のウイグル人が彼のように反共、自由人権重視であったかといえば、そうではない。新疆西部イェンギサール県生まれのユルバース・カーン(1889~1971年)を紹介しよう。彼は1950年に新疆省政府主席になり、1951年に台湾へ移住した。1971年に死去するまで新疆省政府主席を務め、第1回メッカ巡礼団長を務めるなど台湾のムスリム社会でも一定の地位にあった人物である。彼もアイデンティティはウイグル人だが、そのウイグル自体は中華民族を構成する一民族と考えており、民族はウイグルであっても、国民としては中国人であるということになり、当時の外省人ムスリムの国家観と大差ない。
このように同じく中国共産党と敵対し、台湾へたどり着いた2人のウイグル人リーダーはイスラーム信仰とウイグル民族と新疆への強い思いという共通点もありながら、ウイグルは中国の一部分なのかどうかという考え方に大きな差が見られる。民族を十把一絡げに捉えるのではなく、実態の理解が求められているのかもしれない。
藤野陽平
ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学――社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。