韓国にとっての8月15日は、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」である。毎年この日には、ソウルの光化門などで大小さまざまな集会が開催されてきたが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ソウル市が集会開催の全面禁止を発表していた。
そのような中、保守キリスト教指導者の一人であるチョン・グァンフン牧師が主導する、政府批判のための大規模集会=写真、ニュースエンジョイ提供=の開催が強行され、社会的に大きな批判を浴びている。
韓国では、検査の徹底実施などを通して新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込む対策がとられ、今年2月の「新天地イエス教会」を主要経路とした感染拡大の危機なども乗り越えてきた。しかし、8月に入って再び新型コロナウイルスの感染者数が急増し始め、韓国社会に緊張が走っている。今回の感染拡大の主要経路がキリスト教の礼拝や小グループでの集まりなどであったことから、感染者数が増すごとにキリスト教に対する社会の目も厳しくなっている。
韓国の防疫当局は、7月8日に教会における小グループの集まりを禁止する処置をとったが、これに対しては、プロテスタント30教派が加盟する韓国教会総連合(韓教総)などキリスト教界側が強く反発していた。しかし結果的には、当局の憂慮が現実化するかたちで集団感染が発生してしまったわけである。
集団感染が発生した教会のうち、感染者を最も多く出しているのは、チョン牧師が牧会するサラン第一教会(ソウル市城北区)である。同教会関連の感染者数は、最初の感染者が判明した8月12日以降増え続け、8月20日現在で676人となっている。同教会で集団感染が発生したことに関してチョン牧師は、外部者が新型コロナウイルスを意図的にもたらした「ウイルス・テロ」が原因であるとする陰謀論を唱え、物議を醸している。
そのチョン牧師らが主導して開催された8月15日の集会には、韓国各地からキリスト教徒をはじめ3000人あまりがバス約80台に分乗して参加したが、すでに同集会を通しての感染者も確認されており、全国への感染拡大が懸念されている。
このようなキリスト教が深く関わる中での新型コロナウイルスの感染拡大状況を受け、韓国政府は8月19日から、首都圏の教会に対してはオンライン礼拝だけを許可することとし、その他の集まりや活動は禁止する措置をとった。一方、キリスト教界側では8月15日以降、韓教総や韓国基督教教会協議会(NCCK)などのキリスト教諸団体が韓国社会への謝罪を含む声明を次々に発表している。
NCCKの声明では、「集まる教会」のために投資されてきた資源が、「生の現場においてより直接的に隣人や自然の生命の安全と救いのために用いられ得るよう再編されねばならない」とし、このいのちの危機の時代にある韓国教会が自己変革を遂げ、社会に目を向けることの重要性が示唆されている。教会内のことに集中するのではなく、社会に目を向け、生命を守る活動を行うことを通してのみ、韓国教会は喪失した社会的信頼を回復し得るということであろう。
い・さんふん 1972年京都生れの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、関西学院大学経済学部教員。専門は宣教学。