【日本YWCA】 コロナ禍で置き去りにされる女性たち あぶり出される孤立と貧困(後編) 飯島裕子(ノンフィクションライター)

 2020年11月、東京都渋谷区のバス停で60代のホームレス女性が男性に殺害されるという事件が起こりました。それから1年。困窮し、炊き出しの列に並ぶ女性の数は増えてきています。これは2008年のリーマンショック後の不況時には見られない現象でした。コロナ禍で女性たちに何が起こっているのか? とりわけ可視化されづらい女性の貧困について考えてみたいと思います。

完全に取りこぼされるシングル・中高年女性

シングルマザーや若年女性など、少しずつ可視化され始めている女性の貧困ですが、一方で完全に取りこぼされてしまっている人たちがいると感じています。それはシングル女性と中高年女性です。シングル女性の貧困率は高く、働いていても3人に1人が貧困状態にあります。また女性の貧困率は高齢になるにつれて上昇していき、65歳以上のシングル女性の貧困率は50%を超えています。

シングル女性が貧困に陥りやすい背景には、女性が自立して生きていくことが困難な日本社会の抱える問題があります。女性の非正規雇用率は非常に高く、男女間賃金格差も立ちはだかります。女性が親や夫から離れ、ひとりで生きていくのは容易なことではありません。それでも慎ましくも堅実に生きている女性たちはいますが、経済的基盤が脆弱なため、コロナ禍のような不測の事態が起こった際、ダメージを受けやすいのです。

取材で出会ったある女性は憧れだったバリスタの仕事に就き、一人暮らしを謳歌していました。しかしコロナ禍で仕事を失い、アパートの更新料が払えなくなり、実家に戻らざるを得ませんでした。実は彼女には義父から性的虐待を受けた過去がありました。その記憶がフラッシュバックし、耐えられなくなった女性は実家を出て友人の家を転々とすることになります。

全国の自治体にはDV被害にあった女性たちが利用できる婦人相談所の一時保護所や婦人保護施設がありますが、経済的に困窮して家を出た女性たちが身を寄せられる施設は多くありません。こうした施設で受け入れる自治体もありますが、あくまでもDV被害者が優先です。大半の施設ではDV被害者を守るため、携帯電話やインターネットなどが利用できません。経済的に困窮している女性の中には仕事をしている人や一日も早く仕事を探したいと思っている人も多く、携帯のない生活は考えづらいのです。前述の女性は父親からの虐待を理由に婦人保護施設への入所を認められましたが、外部と連絡が取れなくなることから入所をためらっていました。

DV被害にあった既婚女性のみならず、たとえば経済的に困窮したシングル女性や家族間トラブルから逃れてきたセクシュアルマイノリティなど、さまざまな理由からステイホームできない人たちが安心できる居場所をつくることが求められています。

コロナ禍で高齢女性の状況が深刻化しています。新型コロナウイルス感染症は高齢者ほど重症化しやすいことからひきこもり生活を余儀なくされている人も少なくありません。

一方、年金収入が乏しいため、感染リスクに晒されながら仕事を続ける人たちもいます。厚生年金がもらえたとしても現役時代の賃金が反映されますから、もともと低賃金の女性は少ない年金額しか期待できないのです。

今も現役で保育士を続ける70代後半のシングル女性は40年以上厚生年金保険料を払い続けてきましたが、現在の年金額は10万円もありません。税や社会保障制度は「夫婦と子ども」という標準世帯を基本として作られているため、「想定外」の存在であるシングル女性にとって不利な制度となってしまっているのです。

また高齢者にはインターネットを利用しない人が多く、コロナ禍において必要なサービスや情報にアクセスできなかったり、孤立しがちであることにも注意が向けられるべきでしょう。

世代や未婚・既婚といった軸で女性を分断するつもりはありませんが、最も声が届きづらい層を取りこぼさないよう、常に耳を澄ませている必要があります。

女性たちが分断を越え共に手をたずさえて

困難な状況が続く中、一体私たちに何ができるのでしょう?

コロナ禍によって以前から存在した女性の貧困があらわになりました。発想を転換し、可視化された今こそチャンスと捉え、困難な状況に置かれた人を一人も取りこぼさない気概で解決に向けて踏み出すべき時であると考えます。

夫の在宅勤務が決まった日にDVから逃げる決意をした女性、緊急事態宣言下でネットカフェが閉鎖されたことから生活保護につながった女性――適切な支援者の存在が不可欠ですが、コロナ禍をきっかけとして新しい人生に踏み出した人もいます。

冒頭に記したホームレス状態にあった女性が殺害された事件から約1カ月後、渋谷の街で彼女を追悼するデモが行われました。そこに集まった女性たちの多くは「彼女は私だ」という言葉を口にしていました。程度の差こそあれ、コロナ禍による影響を受けなかった人はいないでしょう。「彼女は私だ」という当事者意識と他者を自分のことのように思う想像力は世の中を変える力になります。

女性どうしが分断を乗り越え、知恵を出し合い、手を取り合うことで、女性がひとりで働き、生活し、生きることすらままならない現実を変えていかなければならないと感じています。

飯島裕子
 いいじま・ゆうこ 東京都生まれ。東京女子大学、一橋大学大学院修士課程修了。専門紙記者、雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー日本版』などで取材、執筆を行うほか、大学講師を務める。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ 若者ホームレス』(ちくま新書)など。「Yahoo! ニュース個人」ほかビジネス誌やニュース誌のオンライン版などに多数寄稿。カトリック清瀬教会所属、カリタスジャパン啓発委員、横浜YWCA評議員。

イラスト/大島史子

【日本YWCA】 コロナ禍で置き去りにされる女性たち あぶり出される孤立と貧困(前編) 飯島裕子(ノンフィクションライター)

出典:公益財団法人日本YWCA機関紙『YWCA』2月号より転載


YWCAは、キリスト教を基盤に、世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせ、女性の社会参画を進め、人権や健康や環境が守られる平和な世界を実現する国際NGOです。

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