国連が定める「人身取引反対世界デー」(7月30日)に先立ち、世界宗教者平和会議(WCRP / RfP=Religions for Peace)日本委員会(理事長:植松誠)は27日、記者会見し、人身取引防止を訴える声明を発表した。人身取引が、多くの人々が関わる喫緊の人道問題との認識にたち、政府や企業、そして広く日本社会に対し、この問題の根絶に向けた早急の行動を呼びかけた。
この日会見に出席したのは、同委人身取引防止タスクフォース(TF)責任者の宍野史生(ししの ふみお)氏(神道扶桑教管長)、アジア宗教者平和会議(ACPR)事務総長の根本信博(ねもと のぶひろ)氏、音羽山清水寺執事補の大西英玄(おおにし えいげん)氏、ベリス・メルセス宣教修道女会シスターの弘田しずえ(ひろた しずえ)氏、カトリック信徒の小宮山延子(こみやま えんこ)氏、同委事務局長の篠原祥哲(しのはら よしのり)氏。
声明では、人身取引を、性的搾取、強制労働、臓器売買などの目的で、脅迫、誘拐、騙し、または悪質な利益誘導のもと、売買し、支配するものとし、日本で「現代奴隷」として暮らしている人の数は、推計で37,000人いると指摘。WCRP / RfPでは、昨年、同委人身取引防止TFを立ち上げ、国内外の人身取引の実態を学んできた。その学びを経て、今回声明文を作成し、政府、企業、そして広く日本社会に対して、人身取引の全面的防止、被害者の救出、被害者の尊厳の回復、被害者の社会への再統合、加害者への対策強化という法的措置も含めた基本的な対応の徹底的な実施を求めるとした。
WCRP日本委員会は、創設以来、世界、国、地域社会で生きるすべての人々の平和のために活動してきた。これらの活動をもとに、人身取引による被害者の防止に向けた行動として、①WCRP日本委員会加盟教団ならびにWCRP国際ネットワークに対する意識啓発活動、②人身取引被害の社会的認知向上のためのアドボカシー活動、③ WCRPと政府機関、国際機関、人権擁護に関わるNGOや市民団体等との連帯、④ WCRPの社会的資源を活かした犠牲者に対する精神的・物的支援───の4点をあげた。
なお、この声明文は、記者会見が開かれる前に、同委人身取引防止TFによって、人身取引対策推進のとりまとめを行なっている内閣府に届けられている。受け取った担当参事官からは、「政府においても人身取引は、重大な人権侵害であることを認識している。問題解決に向けて、政府と民間で情報を共有し、一緒に取り組んでいきましょう」とエールが送られている。
会見者あいさつの中で、ACRP事務総長の根本氏は、人身取引問題の根底には貧困問題があるこを指摘し、神仏から与えらた命の尊さを伝えていきたいと話した。また、当事者に目を向けて取り組むことが宗教者の役割であり、自分個人でできること、WCRPとしてできること、この2つの面から考えていきたいと語った。
シスターの弘田氏は、日本の人権意識の希薄さに言及したうえで、「人権取引はあってはならないことで、許されることではない」と力を込める。また、コロナ禍の中で、メディアをとおして性的搾取が増加している現状を伝えた。そのうえで、この問題が、送り側政府と受け入れ側政府、さらにその間にある仲介組織といったグローバルな広がりを持っているとし、問題解決には、政府と民間の緊密な協力が不可欠だと話す。さらに、日本国内で起きている人権侵害に対して、海外から厳しい目が注がれている今こそ、人身取引の問題について政府は海外からの批判を真摯に受け止めるべきだと述べ、人身取引の問題について政府が真剣に取り組み、行動を起こすことを要請した。
カトリック信徒の小宮山氏は、いくら国連が定める労働規約にサインしても、現状の劣悪な慣行を改善しない限り変わっていかないと話し、国際的な人権を守る労働計画に合致するよう日本の今の慣行を変えてもらいたいと訴えた。また、技能実習生を受け入れるプロセスが煩雑すぎることにも言及し、仲介組織の不正、母国で背負わされる多額の負担金などの改善を求めた。教皇フランシスコの言葉「人間をモノのように扱ってはならない」を引用し、「共に生き、共に働き、生活する喜びを共に分かち合う。そういうことができるのが真のグローバル社会ではないか」と締めくくった。
会場との質疑応答は次のとおり。
───同委人身取引防止TFの立ち上げの背景は?
2019年に開催された「和解の教育タスクフォーク」の中で、フィリピンの人から人身売買について話があり、そこで「これは、先進国の問題だ」と指摘されたことがきっかけ。すぐに人身取引について調査したところ、4000万人が犠牲になっていたことが分かり、構造的な問題が浮かび上がった。20年1月に理事会・役員会でこの問題をタスクフォースとして取り上げることが決定した。
───国際的にはどこまでアプローチするのか。
日本に深く関わりのあるアジア地域になるが、まずは、フィリピンとインドネシアに絞って、技能実習生制度と性的搾取を中心テーマに取り組んでいく。インド、パキスタンからもオファーはある。
───今後のロードマップはどういうものか。
私たちのミッションは、一人でも多くの人に現状を知ってもらうことで、その上で、さまざまな人と問題共有をし、話し合い、解決方法を探っていきたいと考えている。そして、次のステップとして、祖国から莫大な借金を抱えて来日するベトナム人技能実習生の問題などに取り組んでいく。制度にはいい面悪い面があるので、今後も勉強しながら活動していくことが大事かと思っている。
───コロナ禍であるにも関わらず、人身取引が増えているのはどうしてか。
明らかなのは、ビデオ、オンラインの性的虐待は非常に増えているということ。コロナによる抑圧感の中でDV(ドメステックバイオレンス)が増加し、その流れが性的虐待へとつながるのではないか。被害者の多くは子ども。
───当事者意識の醸成には何が必要か。
強制労働に加担している企業に対して、不買運動などのアクションを起こすことなどが考えらるが、まずは、自分の住んでいる地域に暮らす外国人の現状を知ることではないか。その中でサバイバーへのサポートや、これから生きていくうえでのエンパワーメントなど、できることから行動してほしい。
世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会 人身取引反対声明(PDF)