『証し 日本のキリスト者』刊行記念講演会、最相葉月氏 6年にわたる取材を語る

構想10年・取材6年をかけた長編ノンフィクション『証し 日本のキリスト者』が1月にKADOKAWAより刊行された。この書籍の刊行を記念し、3月21日、著者の最相葉月(さいしょう・はづき)氏による講演会(主催:教文館/KADOKAWA)が開催された。会場となった教文館(東京都中央区)には100人が集まった。

最相氏が同書について講演会を行うのは今回が初めてとなる。=3月21日、教文館(東京都千代田区)で。

最相氏といえば、ベストセラーとなった『絶対音感』(98)をはじめ、『青いバラ』(01)『ナグネ――中国朝鮮族の友と日本』(15)『セラピスト』(16)など発表する作品は常に注目を集める人気のノンフィクションライター。そんな最相氏が今作でテーマにしたのは、今最もホットな話題ともいえる「信仰」だった。同書は、北海道から沖縄、五島、奄美、小笠原まで全国の教会を訪ね、そこで暮らすキリスト者135人に、神と共に生きる彼らの半生を聞き書きした、1千ページ超の渾身の長編ノンフィクションだ。

講演会では、「信仰」をテーマに選んだ理由から始まり、6年におよぶ取材の旅を振り返る形で話は進んだ。最相氏が「信仰」について興味を持つようになったのは、『セラピスト』と『ナグネ――中国朝鮮族の友と日本』の2冊の本がきっかけとなっている。カウセリングがアメリカ人宣教師の息子によって日本に入ってきたことを知ったことや、中国地下教会のクリスチャンである中国人の女性との出会いをとおして、そもそも信仰とは何か、神を信じるとはどういうことかを深く考えるようになったという。

取材のスタートは北九州だった。そこで、これまで自身が抱いてきた教会のいいイメージが崩れることになる。教会といっても組織であることには変わりなく、そこには一般の会社のようなヒエラルキーも存在していたからだ。それと同時に、牧師が留守にしている理由が「山に祈りに行っている」など信徒でなければ「どういうことだろう?」と思うようなことも体験しながら、熊本、鹿児島、奄美大島、北海道、父島、福島などで取材を行った。

講演会では、奄美大島や父島といった一般にはあまり目を向けられない離島におけるキリスト教の歴史と現状についても語られた。また、東日本大震災、在日外国人といった背景を持つクリスチャンへの取材、そして、最後の取材として訪れた熊本県にあるハンセン病療養所菊池恵楓園についても言及した。取材先での貴重なエピソードは、同書で語る人たちの背景をより鮮明にし、それぞれ違った環境の中で信仰を持ち、人生の中でキリスト教を信仰してきた姿を浮かび上がらせた。

この日は質疑応答の時間も設けられ、参加者から幅広い質問が寄せられ、次のようなやりとりが行われた。

Q語りだけで本を構成しているのはなぜか。

A:SNS全盛の今は、誰もが自己主張する時代。そこでは、言葉が断片的に引用され、元々誰が言ったか分からないことで言い争っていて、もっと人の話を丁寧に聞いたほうがいいのではないかという思いが募っていた。なので、今回は人と向き合い、話を丁寧にきちんと聞くようにした。それに対して私がどう感じたかは、その語りの中で表現できたと思っている。

Q:取材の過程で、入信しようという気持ちは起きたか。

A:素晴らしい話に心動かされ、洗礼を受けようと思ったことは何度もある。その度に、洗礼を受けることと今話を聞いていることは別なんだと意識するようにしていた。それに自分が洗礼を受けてしまえば、見えなくなってしまうこともあると思っていた。今はまだ取材の延長にいて、話を聞いた時の思いに満たされているが、時間が経ち、この本からを離れ全く別の状態に自分が置かれた時、何を思うかは分からない。

Q:取材前にキリスト教に抱いていた印象との違いはあるか。

A:クリスチャンでも離婚するとか、教会の扉がいつも開いていないとか。ヒエラルキーなどもあって普通の社会と変わらないと思った。

Q:取材をしていて地域差を感じたことはあったか。

A:五島や奄美大島など迫害を経験をしたことがある土地は、どう書かれるのか警戒しているようだった。なので、丁寧に説明をしてから取材するようにした。

Q:取材のきっかけとなった「なぜ信じるか」という問いの答えは見つかったか。

A:それはぜひ本を読んで見つけてほしい。この本は教会の証集ではなくノンフィクション作品。目次の並びにも意味があって、一冊をとおして初めて「なぜ信じるのか」という問いへの答えが浮き彫りになってくるという作りになっている。なので、自分の教派の箇所だけ読んで終わりにしないでもらいたい。ただ、本というのは、出版された後はどう読もうと読者の自由なので、著者としてはこれ以上のことは言えない。

講演を聞きに来た人は、「インタビューした時の様子を聞き、本の中で文字にされなかったことがリアルに伝わってきた」とか「クリスチャンでない人が書いた『証』の本というのがとても新鮮で、凝り固まった思いが自分の中にあるなと感じた。新たな発見もあってとても楽しい講演会だった」と話していた。

 






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