「まんが平戸切支丹ものがたり」春日集落編の全3冊完成 潜伏キリシタンの殉教聖地などを描く

長崎県平戸市は18日、「まんが平戸切支丹(きりしたん)ものがたり 中江ノ島(なかえのしま)──祈り」(A4判、8ページ)を発行した。

「まんが平戸切支丹ものがたり」春日集落編全3冊

世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産「平戸の聖地と集落」の一つ、春日(かすが)集落で潜伏キリシタンがどのような歴史をたどったかを漫画で紹介するシリーズ第3弾。これで春日集落をテーマにした全3冊が完結したことになる。平戸市では世界遺産の広報活動を常々行っているが、このように漫画を用いた普及啓発媒体の作成は初めて。

フランシスコ・ザビエルは日本に着いた翌1550年8月、鹿児島から平戸を訪れた。領主だった松浦隆信(まつら・たかのぶ)が歓迎してくれたので、2カ月間そこに滞在して100人ほどの人たちを信者にしたという(『聖フランシスコ・ザビエル全書簡』平凡社)。

「まんが平戸切支丹ものがたり 中江ノ島──祈り」の一部

平戸の西岸にある春日集落にも多くのキリシタンが誕生する。その後、キリシタンの共同体である「組(くみ)」がこの地で成立し、教会堂も建てられた。ルイス・デ・アルメイダの書簡には次のように書かれている。

「春日と称する別のキリシタン集落へ向かった。……春日に到着すると、我らが訪問することがすでに知られており、十字架へ続く道は聖体の行列を待ち受ける時のような有様であった」

「その土地全体がキリスト教徒で善良な人々であったことから、私はデウスに祈りを捧げ、パードレが来たとき、彼らのためにミサを挙げるための一軒の家屋を造るようにと促しました。……この教会は海も陸にも大変見晴らしの良い、風通しの良い、信仰深い土地にあります」

春日集落は二つの尾根に挟まれた谷の、ゆるやかな傾斜地にある。そこの住民は江戸時代にキリスト教が禁じられて以降、「組」の指導者を中心に、ひそかに信仰を守ってきた。明治になって信仰が解禁された後も、カトリックに復帰することなく、禁教期以来の信仰を実践し続けた(このあたりの事情は広野真嗣『消された信仰』に詳しい。書評)。しかし、そうした信仰形態は徐々に失われ、今では個人的に信心具を守る程度になっている。

春日集落から北に広がる海に目を向けると、中江ノ島を望むことができる。中江ノ島は、東西に約400メートル、南北に約50メートル、標高34・6メートルの無人島。

中江ノ島

江戸時代初期、神父に協力した人々がこの島で処刑されたが、その中の一人が島に向かう船の中で「ここから天国は、もうそう遠くない」と言ったことから(レオン・パジェス『日本切支丹宗門史』中巻、209ページ、岩波文庫)、潜伏キリシタンらは中江ノ島を殉教聖地(天国への門)と見なし、現在も地域の人々から「サンジュワン様(おそらく洗礼者聖ヨハネの意)」と呼ばれている。

神父不在のため、「お授け(洗礼)」の儀式を自ら行ってきた潜伏キリシタンは、その際に必要な「サンジュアン様の御水(聖水)」を汲み取る「お水取り」をこの島で代々行ってきた。島全体が岩場で、その岩の裂け目からしみ出す湧水が聖水とされたのだ。

中江ノ島

 

漫画では、そうした殉教の歴史とともに、春日町まちづくり協議会顧問である寺田一男さん(70)が子どもの頃、祖父から聞いた「お水取り」の話も盛り込まれている。

この漫画を企画したのは、平戸市役所に勤務する、春日集落担当の地域おこし協力隊員である田中能孝さん(43)で、米倉裕治さん(50)が作画を担当した。米倉さんは市内で衣料品店「しみづや」を営んでいるが、一昨年、外国人客にも人気のアニメを使うことを思いつき、自らキャラクターを描いたポップを店内に飾るようになった。それを見た田中さんが、この地を訪れた人に潜伏キリシタンの歴史を分かりやすく伝える漫画の執筆を依頼したという。

田中さんはこの漫画の意義をこう語る。

「かくれキリシタン信仰の記憶は、世代交代とともに徐々に失われていく可能性があります。だからこそ、こうした漫画という手法で記録を残すことによって、地元の子どもたちも手に取りやすくなります。あらゆる世代の住民や来訪者が、分かりやすく春日集落の歴史や文化を学び、世界遺産にも登録された地域の宝物を次世代に継承していってほしい」

丸尾山

第1弾は「丸尾山」(2019年7月発行、4ページ)。春日の棚田を見渡せる小高い山で、キリシタン時代には墓地があり、大きな十字架が立てられたところ。ここからは、キリシタン時代の墓と思われる長方形の土坑が多く発掘されている。漫画では、前述のアルメイダが春日集落を訪れ、一人息子を遺(のこ)して埋葬される母親の物語がつづられる。

オテンペンシャ

第2弾は「苦行の鞭(むち)」(2020年2月発行、同)。麻の細縄を束ねたもので、「オテンペンシャ」と呼ばれる(語源はポルトガル語の「ペニテンシアPenitencia(改悛)」)。春の四旬節(受難節)の46日間に1日1本ずつ縄を撚(よ)り、計46本を束ねて作るが、キリストの受難をしのんで自ら鞭打つ苦行を行い、今も大切にされていることが漫画では描かれている。

「まんが平戸切支丹ものがたり 中江ノ島──祈り」は1万部作製され、18日から春日集落(春日町)の案内所「かたりな」で無料配布される。

問い合わせは平戸市文化交流課(電話0950・22・9143)。

 






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