表現の大切さが再確認された「聖書協会共同訳」 石川立氏と春日いづみ氏による対談

 

聖書事業懇談会「聖書協会共同訳・詩文の魅力を語る」と題して24日、教文館ウェンライトホール(東京都中央区)で石川立(いしかわ・りつ)氏(同志社大学神学部教授)と春日(かすが)いづみ氏(歌人)による対談が行われた。

春日いづみ氏(左)と石川立氏

昨年末に発売された礼拝用聖書「聖書協会共同訳」で原語担当翻訳者の石川氏と、日本語担当翻訳者の春日氏が、その新しい翻訳の魅力について語り合った。特にプロテスタント聖書学者の石川氏とカトリック歌人の春日氏は、旧約の中でも文学的な「詩書」(ヨブ記、詩編、箴言、コヘレトの言葉、雅歌)の翻訳に関わったこともあり、11日に大阪で行われたパート1では「ヨブ記、詩編、箴言」、今回のパート2では「詩編、コヘレトの言葉、雅歌」を中心に翻訳のエピソードが紹介された。

──翻訳・編集作業の中で最も思い出に残っていることは?

石川 新共同訳の場合、原語学者が翻訳したものに日本語学者が手を入れるというかたちで作られたのですが、新しい聖書協会共同訳では、原語学者と日本語学者が初めからチームとなって作業に取り組みました。カトリックとプロテスタントという垣根を越えただけでなく、翻訳者がまさに「共同」で作り上げたのが今回の聖書です。この事業を通して多くの出会いがあり、豊かな時間を持たせていただきました。

春日 9回行われた合宿では、それぞれ7~10日間にわたって修道院で翻訳・編集作業に取り組みました。長い時間を共に過ごすことで、互いを知り、理解を深めることができて良かったと思います。激論を交わしたこともありましたが、「礼拝にふさわしい、格調高く美しい日本語訳」を目標に、一人ひとりが「自分は日本各地から神様に呼び集められたんだ」という気概を持って臨んでいました。

司会の日本聖書協会翻訳部主事補の島先克臣(しまさき・かつおみ)氏(左)と春日氏、石川氏

──詩文の翻訳について

石川 今回は「礼拝で使われること」を目的にして翻訳が進められました。新共同訳は文章が説明的でしたが、新しい翻訳では表現の大切さが再確認されました。たとえば、新しい詩編はより文学的になり、礼拝でこれを聞き、教会外でこれに触れる人たちの心身に沁(し)みわたる清水(しみず)となり、生きる糧(かて)となり、血となり肉となり、祈りとなっていくことが期待されます。

春日 詩文において特に気を配ったのは、必要以上の敬語や代名詞を省くことです。繰り返し音読をしながら、耳から入って心に届くように、言葉を整理していきました。また、文語調であっても、「幸い」など、古来より使われている美しい言葉や日常的に使われている言葉は積極的に取り入れています。こうした背景から、新共同訳では「憩いの水のほとり」(詩編23:2)となっていたのを、新しい聖書では「憩いの汀(みぎわ)」というように、以前の言葉が復活しています。

石川 春日先生との作業を通じて、古い言葉も同じ日本語であるということを教えていただきました。翻訳とは、日本語という大きな湖の中からふさわしい言葉を選ぶ作業なのだなと思います。

──雅歌、コヘレトについて

春日 雅歌では、日本語から受けやすい一般的なイメージを覆し、より原点に近づけるために、新共同訳では「かもしか」とされている箇所を「ガゼル」に(2:7、9、17、3:5、4:5、7:3、8:14)、「狐」を「ジャッカル」に変更しました(2:15)。

左上から時計回りにニホンカモシカ、ガゼル、ジャッカル、狐

また、「愛がそれを望むまでは、愛を呼びさまさないと」という箇所(2:7)は、「愛が望むまで目覚めさせず、揺り起こさないと」と変更し、すっきりとさせました。余計な言葉で飾り立てると、文章は心に入ってこなくなると思うのです。

石川 コヘレトの3章は、たとえば「生まれる時、死ぬ時」(2節)というようなぶつ切りの表現から、「生まれるのに時があり、死ぬに時がある」と変更することで、リズミカルで口ずさみやすくなったと思います。また9章9節は、「愛する妻と共に楽しく生きるがよい」を「愛する妻と共に人生を見つめよ」と変更し、より味わい深い表現になりました。

春日 コヘレトで、新共同訳では「空(むな)しい」(1:2)という言葉が使われていましたが、「空(くう)の空」と、それ以前の言葉に戻しています。「空しい」という言葉にはどこか厭世(えんせい)的で、暗いイメージがありますが、意味を限定しないことで、読み手に思いを巡らせる余地があるのではないかと考えました。

石川 新共同訳では、コヘレトにはどこか消極的な印象がありましたが、新しい聖書では積極的です。「空(くう)」とは、自由な空間のこと。「何が起こるか分からないから、若い時から神様を覚え、神様を信じて、一生懸命生きましょう」。そんな積極的なメッセージを届けてくれると思います。聖書協会共同訳は、ぜひ朗読をして、文章のリズムを体で味わっていただけたらと思います。御言葉を体に入れて味わうことこそ、聖書の理解にもつながるのではないでしょうか。

 






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