韓国教会の性暴力に関する提言から 松山健作 【東アジアのリアル】

10月初旬より私は、3年半ぶりに40日ほど韓国に滞在した。その際、聖公会大学校に寄宿しながら、主日にはさまざまな教会に足を運び、久しぶりに韓国教会を肌で感じる時を過ごし、教会の現状について見聞きする機会を得た。

韓国は、キリスト教人口が国民の3割であることを自負する傾向がある一方、ある人は「韓国教会の腐敗」について警鐘を鳴らしている。当然、そのような状況は、大きな教派から小さな教派まで韓国教会の一員として抱える問題であり、マイノリティである日本のキリスト教界においても共通する事柄が存在する。

今回肌で感じた課題の一つとして、教会における「性暴力」、「性」に関する事柄を取り上げたい。近年、『わたしたちの司祭』(2021年9月4日)という大韓聖公会の女性司祭按手20周年の記念誌が刊行され、組織における女性の働きについて歴史的考察から現代的な課題についてまで検討することのできる文献が刊行された。

また『安全な教会――ガイドライン』(2021年10月31日)も刊行された。こちらはアングリカンコミュニオンにおけるセーフチャーチのガイドラインが翻訳出版されたものである。内容的には、ハラスメントが教会内で起こった時の対処方法などのガイドラインとなっており、性暴力を防止する試みも含まれている。健康で安全な教会を志向するための1冊で、日本語版の刊行も待たれるところである。

家父長的な風潮の強い韓国教会社会において、規模の大小にかかわらず発生している課題の一つが、性暴力事件である。さまざまな教会に足を運ぶ中で「〇〇牧師は休職中」といった形で何らかの問題によって現場から離れている状況に遭遇する。具体的に聞いてみると、性暴力事件の当事者となり、休職中であるとのこと。しかし、真相究明も明確になされず、うやむやなまま、1年後には復職するというようなケースもある。あるいは、非公式にどこかの教会で牧師でない形で雇用されているケースもしばしばである。

UnsplashJosh Applegateが撮影した写真

教会には往々にして加害者を守る、あるいは師弟関係から教役者同士がかばい合うような体質がはびこっており、被害者にとって二次加害の温床ともなっている。力を持たされていない暴力を受けた被害者は、大きな傷を抱え、時に時間を経てからPTSDを発症することも少なくない。組織としていかに責任を負い、補償し、被害者を救済するかについてのマニュアルが、教会にも必要な時代になっている。

韓国教会の主流派である大韓イエス教長老会(統合)は2018年、2021年に続き、3巻目となる『性暴力予防マニュアル』(2022年6月24日)を刊行した。教会学校などにおける性暴力を防止するために「性」に関する感受性を高め、性差別文化そのものを改善していく取り組みがなされている。差別なく平等に人間を愛する、神の存在を内面化するための教会学校教師や教役者に向けたマニュアルとなっている。

韓国基督教教会協議会(NCCK)においても女性委員会とキリスト教反性暴力センターによって、『教会性暴力予防教育カリキュラム』(2022年11月21日)が刊行された。教会における性暴力の根絶、教会における性暴力による被害者への癒やしと教会共同体の回復を目的にしており、安全な共同体形成のための性暴力予防の基準が提案されている。

韓国教会の2010年代は、教会の公共性から教会の安全性が問われる時代であった。2020年代前後からは、「性差別、性暴力」のない教会の安全性が提唱されるように変化している。しかしながら、韓国教会の保守的な教会では「性」が話題にすらならない。

そのような意味では、神学教育の中で性暴力、性差別、性教育を取り扱っているかどうかが問われるのであろう。経験則であるが、確かに神学校では特別講義的な学びは存在したとしても、「性」を主題に取り上げワンクールの学びを得るという経験は少ない。となれば、やはり現役世代の牧師が再度「性暴力、性差別、性教育」などに関心を持ち、学ぶことも今後、安全な教会、安全な共同体を志向するために必須の事柄となるであろう。

私の属する日本聖公会京都教区でも、『H元牧師性暴力事件における京都教区による二次加害検証報告書』(2022年11月4日)が刊行されたばかりである。こちらはマニュアルや教育カリキュラムとは異なり、具体的な事象における検証報告である。しかし、同時に安全な教会を志向する体質改善への提言もなされている。

おそらく2020年代に突入し、「性」という事柄が教会の中で話題にできる状況になりつつある。日韓のキリスト教界の体質が傷を負わせる教会ではなく、傷を癒やし、相互に安全な教会を志向することのできる協力ができる日が来ることを願っている。

*『H元牧師性暴力事件における京都教区による二次加害検証報告書』に関する問い合わせは、日本聖公会京都教区教務所(Tel 075-708-2813)まで。

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