安倍元首相の「国葬」めぐり西南学院大学神学部がシンポ 「暴力の文化」に代わる「平和の文化」を

撮影=山名敏郎

国論を二分する中で迎えた9月27日。安倍晋三元首相の「国葬儀」が日本武道館(東京都千代田区)で行われ、会場近くの九段坂公園に設置された一般向けの献花台には2万5000人余が列を作った。一方、式典開始と同時刻に開催された国会正門前の集会には約1万5000人(主催者発表)が参集したほか、全国各地で「国葬反対」を掲げる抗議行動が行われた。

岸田文雄首相は、「在任期間の長さ」「選挙中の蛮行による死去」「国際的な評価」を理由に「国葬」を閣議決定したものの、戦後、明治憲法下の「国葬令」が失効後、「国葬」の定義が定まらない中で国会の審議を経ずに強行したこと、説明が不十分であることへの批判が高まっていた。政府は「弔意を強制するものではない」と説明したが、各自治体では半旗を掲げる、首長が参列するなど、対応が分かれた。

国会前の「国葬反対」デモには宗教者も駆け付けた

西南学院大学(G・W・バークレー学長)神学部は、死者を美化し、政治権力の正統性を宣伝する装置として機能してきた「国葬」の抱える諸問題を政治、哲学、神学など多角的な視点から批判的に検討しようと、「『国葬』を考える」と題する公開シンポジウムを同大学内(福岡市早良区)で開催した(同大学法学部「ことばの力」養成講座、安全保障関連法の廃止を求める西南学院有志の会共催)。市民や学生ら約50人が参加したほか、YouTube(https://youtu.be/-hyvCMCUSg0)でも配信された。

登壇したのは、いずれも同大学で教鞭をとる田村元彦(法学部准教授)、柿木伸之(国際文化学部教授)、濱野道雄(神学部教授)、須藤伊知郎(神学部教授)の4氏。

田村氏は、今回の「国葬」を「戦後の遺産を継続的かつ執拗に破壊し続けてきた安倍政治の帰結」とし、福岡市の小学校が採用した通知表で6年社会科の評価項目に「愛国心」が記載された問題、北九州市教育委員会による「君が代」の声量調査、教育基本法改悪、日本学術会議会員任命拒否問題、五輪強行などに至る流れを概観した上で、「徹底して国民に無力さを痛感させ、政治的なものに関心を失わせることで好き放題できる構図を作り上げてきた」安倍政権の瑕疵を非難した。

柿木氏は、近代日本において「国葬」が感情を束ねる動員装置として機能してきた歴史を顧み、安倍元首相の「国葬儀」には「立憲主義と民主主義の破壊による社会の私物化に留まらず、歴史と言葉を奪い、人間をも私物化しようとする政治を神話的に美化し、忘却させる効果がある」とした。

須藤氏は、自身の研究領域である古代ローマ時代の歴史から、皇帝が死後、後継者の執り行う儀式によって神格化されていく事例を引き合いに、前任者の権威を継承することで自らの正統性を誇示する宗教的・政治的プロパガンダであり、「国葬」も同じ構図だと述べた。

濱野氏は、安倍政権と旧統一協会との親和性について「この道しかないと思い込ませる手法は、カルトのマインドコントロール」と指摘し、「神のためなら嘘をついてもいい」という教えや「話しても無駄」「デモで社会は変わらない」という厭世観を「暴力の文化」と表現。「国葬」を黙認することはそれを浸透させ、拡大していくことになりかねないとの懸念を表明し、これに代わる「平和の文化」を作り上げる必要性を訴えた。

登壇した(左から)須藤、田村、柿木、濱野の各氏

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