【ヘブル語と詩の味わい⑤】 「並行法から段落へ」 津村俊夫(『新改訳2017』翻訳編集委員長・聖書神学舎教師)

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前回、詩篇103の1-2節を四行詩と捉える可能性に注目した。今回はこの2節が、段落全体(1-5節)にどのように関わっているのかに注目したい。

3        主は あなたのすべての咎を赦し

あなたのすべての病を癒やし

4        あなたのいのちを穴から贖われる

主は あなたに恵みとあわれみの冠をかぶらせ

5        あなたの一生を 良いもので満ち足らせる

あなたの若さは 鷲のように新しくなる。(新改訳2017)

3 主はあなたの過ちをすべて赦し

あなたの病をすべて癒やす方

4 あなたの命を墓から贖い

あなたに慈しみと憐れみの冠をかぶせる方

5 あなたの望みを良きもので満たす方

こうして、あなたの若さが

鷲のように新しくよみがえる。(協会共同訳)

ヘブル語本文のローマ字転写は次の通り。

hassōlēa ləkol-ʿǎwōnē

hārōpēʾ ləkol-taḥǎlūʾāyə

haggôʾēl miššaḥat ḥayyāyəkî         (脚韻:行末で韻を踏んでいる)

hamʿaṭṭərēkî ḥesed wəraḥǎmîm

hammaśbîaʿ baṭṭôb ʿedyēk              (アンダーラインは分詞形)

titḥaddēš kannešer nəʿûrāyəkî

この3節を、三つの二行詩と考えるか、二つの三行詩と考えるか、意見が分かれる所である。協会共同訳、新改訳三版、口語訳は前者の立場を、新改訳2017と新共同訳は後者の立場をとる。マソラ本文(伝承本文)の節番号は後で付けられたのであるから、時には詩文の文体から判断して、二つの二行詩を四行詩として解釈する方が理にかなっている場合(詩篇103:1-2:前回記事参照。89:36-37、ヨブ記12:24-25他。)がある。

3-5節を二つの三行詩に分けることによって、「赦し」「癒やし」「贖う」という三つの否定的なもの(罪、病、滅び)から肯定的なものへの移行が最初の三行詩で語られ、次の三行詩で更にポジティブな側面が語られていることが明らかである。このように、詩篇を読むときに、1節または2節にまたがる並行法の技法に注目するだけでなく、段落全体(詩篇103の場合、1-5節)の形式と内容に目を向けることも大切である。

―――――――――

① 「英訳で俳句を味わうと」

芭蕉の俳句

「古池や

かわず飛び込む

水の音」

の英訳に次のようなものがある。

“An old silent pond,

A frog jumps into the pond.

Splash! Silence again.”

良く考えられた訳である。音節数は 5-7-5で、少ない語によってこの俳句の意味を的確に伝えている。子音 (s)の繰り返しや、最初の行と二行目との脚韻も巧みである。

直訳では意味が伝わらないところ、例えば「古池や」では、”silent”を補って訳している。「飛び込む」は “jumps into” と訳し目的語を補う。「水の音」は “sound of water” と直訳せず、水の音そのものを擬音語 “splash”で再現し、その後静寂に戻ることを “silence again” と説明し、余韻を残して終わる。実に、よく考え抜かれた英訳である。

しかしこれで、俳句のわび、さびが伝わるだろうか。

つむら・としお
1944年兵庫県生まれ。一橋大学卒業、アズベリー神学校、ブランダイス大学大学院で学ぶ。文学 博士(Ph.D.)ハーバード大学、英国ティンデル研究所の研究員,筑波大学助教授を経て、聖書神学舎教師。ウガリト語、 旧約聖書学専攻。聖書宣教会理事、聖書考古学資料館理事長。著書に『創造と洪水』『第一、第二サムエル記注解』など。

 






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