トーマス・レーマー著/白田浩一訳 ヤバい神(左近豊)【本のひろば.com】

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評者: 左近豊

ほとばしる聖書への熱情と学問的精緻さ
〈評者〉左近 豊


ヤバい神
不都合な記事による旧約聖書入門

トーマス・レーマー著
白田浩一訳
四六判・250頁・定価2420円・新教出版社
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 著者のレーマーは、スイスの大学で教鞭をとった後、コレージュ・ド・フランスの教授、現在は学長も務める当代きっての聖書学者の一人である。『申命記史書』や『100語でわかる旧約聖書』などが邦訳されており、数回来日もしている。二十歳代後半にフランスの改革派教会の牧師の訓練を受けた経験もあってか、聖書を読み始めた人たちや、聖書の叙述に違和感や躓き、時に嫌悪感さえ覚える人たちの問いに牧会的に真摯に向き合いながら、あえて物議をかもす聖書箇所を取り上げて、真正面からそれらと格闘しながら、ほとばしる聖書への熱情と学問的精緻さをもって本書は著されている。
旧約聖書の神については、排他的で残忍で好戦的で復讐心に燃えて敵対するものは殲滅することも厭わない非情な「裁きの神」、とても近代以降の人権感覚とは相いれないものというイメージが付きまとう。本書は、そのような旧約聖書の神観について、聖書記述の背後にある歴史的状況や文化的環境を丁寧かつ分かりやすく解説しながら、読み手自らが今一度、旧約の神観について再考し、旧約聖書を新鮮な思いで読み直す手がかりを提供する。また副題にあるように、旧約聖書の入門的知識も身につく贅沢な書である。白田氏の訳文は翻訳であることを忘れさせるほどに滑らかである。
全体で六章からなっている。序論「人間に挑みかかる旧約聖書の神」は旧約の神の歴史的変遷(系譜)を辿る。そもそも古代イスラエルにとって一神教は本来の信仰ではなく、むしろ幾世紀にもわたって発展してきた概念であることが、旧約聖書の背景にある古代近東の政治・宗教・思想の歴史を通して明らかにされる。旧約の時代を生きた信仰の先達たちの神との出会い、葛藤と格闘の道のりが、知的興奮を伴って生き生きと読み手に迫ってくる。

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