アメリカ、コロナ病棟に届くメリー・クリスマス(2) 【アメリカのコロナ病棟から 関野和寛のゴッドブレス】第9回

アメリカの病院聖職者として働く中、初めてコロナ患者を訪ねた時、私は患者さんに折り鶴を手渡した。隔離病棟の中で大きな孤独の中にあった彼は、涙を流し「この鶴を一生とっておくよ。そして必ずコロナを克服するから!」と喜んでくれた。この出来事から、クリスマスにコロナ患者、医療従事者皆を励ます「千羽鶴によるクリスマスツリーを作りたい!」とSNSで呼びかけたところ、なんと日本中から16,000羽の折り鶴が集まった。私は当初、日本の友人に直接アメリカまでこの折り鶴を持ってきてもらい、そして組み立てを手伝ってもらおうと計画をしていた。だがそんな最中、私が働くミネソタ州での新型コロナウイルス感染者数が1日8,000人を超えるほどに激増し、州知事による緊急事態宣言が出てしまったのだ。

急いで発送方法を国際宅急便に切り替えたものの、このコロナショックにより多くの輸送業者がアメリカ国際宅急便を中止していた。それでも可能性があった我らがクロネコヤマト国際宅急便に希望を託すが、何日で届くのかはまったく分からなかった。16,000羽の折り鶴が日本から飛び立ったのと同時に、今度はアメリカの病院側の体制を整えなくてはならなかった。私はこの折り鶴クリスマスプロジェクトを数週間前から上司に相談をしていた。緊急事態宣言下、医療崩壊も起こりかねない病院の中で、やってきて間もない日本人牧師の計画、しかもクリスマスデコレーション計画など後回しになるのは目に見えていた。

しかし、このプロジェクトのために全校生徒で鶴を折ってくれた日本のキリスト教主義学校の動画を見せた瞬間、病院の上層部が一気に動き出し始めた。「よし、やろう! 病院の吹き抜けのメインロビーを解放する。外来患者が少ない来週末に電動リフトを使って一番高いところから折り鶴を釣るそう。それまでに準備をしてくれ!」と。この喜びの知らせと共に私も全力で動き始める。次に必要なのは16,000の折り鶴を糸に通してくれる働き手たちだ。

16,000 paper cranes ORIGAMI for American hospital from Japan 2.アメリカの病院に日本から届けられた16,000羽の折り鶴 2。

私は自分が担当している精神科病棟の子どもたちの集まりに行き、日本から16,000羽の折り鶴が到着しようとしていること、それを飾り、患者さんと医療従事者を励ましたいと伝えた。すると彼らは、「やろう!」と言って手を貸してくれた。彼らの1人はこう言った。「このようなプロジェクトができることを誇りに思います」。感受性豊かな彼は患者として腫れ物に触るように扱われるのではなく、1人の人として誰かのために働ける意味を一瞬で感じ取ってくれたような気がした。

そして多人種、多宗教のチャプレンチーム全員が毎日、この折り鶴プロジェクトのために力を貸してくれたたのだった。日本の、直接会ったことのない人々が1羽1羽折ってくれた鶴の羽を、アメリカの病院で1羽1羽ていねいに広げた。昨年5月に黒人市民ジョージ・フロイド氏が警察官により殺害され、大きな暴動が起き、続くコロナショック、そして大統領選挙でいくつにも分断され、傷ついた街に皆で希望を灯す、そのような儀式にさえ私は感じた。

そして、時がやってきた。世界最大のコロナ感染国、その最前線である病院の天井に数え切れないほどの鶴が羽ばたいた。皆が歓喜の声を上げた。下を向き続けた患者さんたちは足を止めて上を見上げ、戦いの日々で疲弊した看護師たちは1日に何度も鶴を見にきては「日本の皆、本当にありがとう」と言ってくれた。そしてクリスマスの日、家に帰れなコロナ患者の皆にその鶴を1羽1羽手渡していった。

2020年、予期せぬウイルスに私たちの生活はひっくり返された。2021年、このウイルスとの戦いは続いていく。その中でも16,000羽の折り鶴はたくさんの人々の手を伝い、日本からここアメリカの病院までやってきた。私たちが拡げたこの希望は、消えることなく羽ばたき続けると強く、強く感じている。そして、このクリスマスの折り鶴プロジェクトは私にとって良き知らせ「福音」だった。

偉くて立派な聖職者が難解なことばで救いを語るのが「福音」だと私は思わない。誰かのために皆が時間、国、文化、宗教を超えて一つの希望に包まれていく圧倒的な出来事を、「福音」と私は呼ぶ。格差と分断と疫病の嵐が吹き荒れるこの時代に人々の魂を救うのは、このような「福音」だ。だから私は今日も最前線に立つ。究極の不安と圧倒的な希望の二つを持って、コロナと「福音」の最前線に立つのだ。

狂った世界にGOD BLESSを。 ロック牧師 関野和寛 with THE BLACK SHEEP


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アメリカ、コロナ病棟に届くメリー・クリスマス(1) 【アメリカのコロナ病棟から 関野和寛のゴッドブレス】第8回

関野和寛

関野和寛

せきの・かずひろ キリスト教会牧師(プロテスタント・ルター派)。東京生まれ。青山学院大学、日本ルーテル神学校を卒業後、香港ルーテル神学校牧会宣教博士課程で学ぶ。2006年から14年間、歌舞伎町の裏にある日本福音ルーテル東京教会の牧師として働く。教会の枠を超えて堅苦しいキリスト教の雰囲気を壊し、人々に日常の場で赦しや愛を伝えるためにあらゆる場所に出向き講演やロックライブをする。米ミネソタ州ミネアポリスのコロナ病棟での修業を経て、帰国後は在宅医療・ホスピスチャプレン、ルーテル津田沼教会牧師として働く。

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