ひまわりと青い鳥――新政権の船出と民主主義を模索する台湾社会 藤野陽平 【この世界の片隅から】

5月20日、1月の選挙で勝利した民進党頼清徳が総統(大統領に相当)に就任し、新政権が発足した。しかし、総統選と同日に行われた立法院(国会に相当)議員選挙では、民進党は第二党となり少数与党となったため、厳しい政権運営となることが予想されていた。

総統就任に先立って、第一党の国民党は第三党の民衆党とともに立法院の権限を大幅に強化させる「立法院職権行使法」の一部改正案を提出し、5月28日に可決させた。法案は年1回総統による立法院で情勢報告の義務化、当局や一般の企業に対する調査権の拡大、尋問を受けた際に資料提供を拒否できないといった内容で、総統は民進党、立法院は国民党という情勢の中では国民党が一方的に有利になるものとなっている。与党民進党は十分な議論がなされていないと丁寧な審議を求めているが、国民党側はこれを無視するかのように審議に入ってしまう。5月17日には民進党議員も審議入りを阻止しようと立法院長の席を占拠しようとし乱闘騒ぎになり、6人が病院に運ばれるなどした。6月24日、与党民進党はこの法案の憲法解釈を憲法法廷に求める考えを示し、7月19日に憲法法廷は一部条文の一時停止を決定し、現在も議論が続いている。

こうした動きに対して5月24日には10万人以上が、28日には2万人以上の市民が立法院の周りでデモを行い、「沒有討論、不叫民主」(議論がなければ民主主義とは言えない)などのプラカードを持ち抗議の声をあげた。

台湾の民主化に貢献し、人権問題について強い関心を寄せる台湾キリスト長老教会(以下、長老教会)もこの動きに呼応し、立法院の隣に位置する済南教会はデモ運動の重要な拠点となっている。5月20日から定期的に「為國家祈禱會」(国家のための祈祷会)を開催したり、デモの際には炊き出しやゴミの収集分別を行ったり、聖歌隊が「We shall over-come」などを歌ったりと、現場にいれば長老教会の活動が目に入ってくる。

デモの会場が立法院に接する青島東路であることから、この運動のことは「青鳥行動」(青い鳥運動)と呼ばれている。そしてこの場所は2014年のひまわり学生運動が起きたのと同じ場所である。十分な議論をせずに中国と自由貿易協定を結ぼうとしていた当時の国民党政府に抗議し、その後の政権交代へとつながっていったひまわり運動は、青い鳥運動と通じるものがある。この10年の間に民主主義や人権をめぐる国際情勢は大きく揺らいできた。台湾でも同性婚や性的マイノリティの問題、再生可能エネルギーへの転換、香港との連帯、コロナ対策といった国際社会からも注目を集める重大な課題について取り組まれており、多くの問題は今なお解決せず揺らぎの中にある。

ひまわり学生運動で撒かれた種はこの10年でどう育ったのだろうか? そして、青い鳥はどこへと向かうのだろうか? しばらくは混迷が続きそうな国際情勢の中で、民主・自由・人権の青い鳥を探し出す旅には大きな困難が伴いそうだ。キリスト教を通じた連帯の重要性も、ますます増していくだろう。

藤野陽平
 ふじの・ようへい 1978年東京生まれ。博士(社会学)。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員等を経て、現在、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。著書に『台湾における民衆キリスト教の人類学――社会的文脈と癒しの実践』(風響社)。専門は宗教人類学。

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