シグニスジャパン(SIGNIS JAPAN=カトリックメティア協議会、会長:土屋至)は2月19日、安田淳一(やすだ じゅんいち)監督の劇映画『侍タイムスリッパ―』(配給:ギャガ 未来映画社)に2024年度の日本カトリック映画賞を贈ることを発表した。
同映画賞は、前の年の12月から次の年の11月までに日本国内で制作・公開された映画の中からカトリックの世界観と価値観にもっとも適(かな)う作品を選んで贈られるもので、今年で49回目を迎える。今回選出された『侍タイムスリッパ―』は、幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップして「斬られ役」として生きなおすという奇想天外な物語。この映画の稀にみる面白さ、普遍的なメッセージ性が高く評価された。

「侍タイムスリッパ―」©2024 未来映画社(配給:ギャガ 未来映画社)
これまで多彩なジャンルの作品が選ばれてきた同映画賞だが、今回受賞したのはコメディでありながら人間ドラマ、そして手に汗握るチャンバラ活劇。タイムスリップ、チャンバラ活劇、映画作りが絡みあった安田淳一監督による異色の自主映画だ。シグニスジャパン顧問司祭 晴佐久昌英神父は、「映画における最高の誉(ほ)め言葉のひとつである『かっこよさ』に溢(あふ)れた、人を幸せにする映画だ」と絶賛し、その「『かっこよさ』にキリスト教的価値観を見出した」と授賞理由の中で語っている。
米農家と映画監督の兼業の生活を送る安田監督は、同作品が自主制作3本目となる。脚本、原作など1人11役を務め、昨年8月にインディーズ映画を推すことで知られる池袋シネマ・ロサ1館から始まり、口コミで評判を呼び、上映館はたちまち350館以上に広がった。今も絶賛上映中だ。YouTubeが配信するインタビューにおいて安田監督は、「この映画は困難な状況に追い込まれた人が諦めるのではなくて、自分の持っているものを懸命に研鑽して、新しい人生を築いていくという話なので、多くの人に見ていただき楽しんでもらいたい」と話している。

「侍タイムスリッパ―」©2024 未来映画社(配給:ギャガ 未来映画社)
シグニスジャパンでは7月に、日本教育会館一ツ橋ホールにて授賞式、映画上映および対談(安田 淳一監督×シグニスジャパン顧問司祭、晴佐久昌英神父)を予定している。
授賞理由
「真剣勝負」の映画
シグニスジャパン顧問司祭 晴佐久昌英
かっこいい映画だ。その一言につきる。映画における最高の誉め言葉のひとつである「かっこよさ」に溢れた、人を幸せにする映画だ。
真剣であることが、こんなにもかっこいいなんて。そして、真剣に生きる人間をこんなにもかっこよく撮れるなんて。主人公の立ち居振る舞いや嘘のない剣さばき、そのまっすぐな生き方がかっこいいのはもちろんだが、それにも増して、こんな映画を作りたいと真剣に夢見て、資金不足をものともせずに天命のように撮り続け、ついにはこれほどに笑って泣いて心を震わせられる、真剣勝負の映画を作り上げてしまう監督こそが、めちゃめちゃかっこいい。
ああ、そうだった、映画って人を喜ばせるためにあるんだった。人を喜ばせることに真剣になり、そのために犠牲を払うことって、人が共に生きる原点なんだ。純粋にそう感じさせてくれたことに、感謝したい。主人公が私利私欲を捨て、命がけで義を守ろうとする姿は武士道そのものであり、友のために命を捨てるキリストの道さえ思わせて、心が洗われる。
- 感動は、生きる原動力だ。今の日本のかっこわるい政治家や、かっこわるい経営者を見るまでもなく、いつの間にかかっこわるい大人になってしまったぼくらに元気を取り戻してくれる、この真剣に面白い映画をなんとしても表彰したいと思った。なにしろ、あのラストシーンで息が止まったまま映画を観終え、ようやく深呼吸したとき、こんな自分ももうちょっとかっこよく生きれるかもと、思わず背筋を伸ばしてしまったのだから。まったくの蛇足だが、この作品のかっこよさにキリスト教的価値観を見出した、われらが日本カトリック映画賞も相当かっこいいと思う。