子どもを亡くした親のケア(前編) 【関野和寛のチャプレン奮闘記】第24回

その夜、私はオンコールチャプレンの当番だった。夜11時から翌朝6時半まで、病院には常駐のチャプレンはいない。しかしオンコール担当者がポケベルを携帯し、緊急時には30分以内に病院へ駆けつける決まりになっている。オンコールの夜は、たとえ身体が眠れても、精神は眠れない。いつ、どのような命の危機が起こるか分からないなか、神経は極限の緊張状態に置かれる。

ピリリリリーッ!

夜中の2時半、けたたましい音に飛び起き、急いで救急病棟へ向かった。通常はまず担当看護師から、患者の状態や家族の様子を聴いてから現場に入るのだが、その夜は違った。

看護師は私の姿を見つけると、「待ってたわ!」と強く腕を引っ張り、処置室の中に引き込もうとした。扉の前で私はたじろいだ。「この向こうには血の海が広がっているのではないか……」。覚悟を決めて中に入る。

そこにいたのは、独りの白人女性だった。彼女は赤ん坊を抱きしめ、ベッドに腰かけている。私を見るなり、彼女は大声で叫んだ。「私のベビーが息をしていないの!!」そして、大粒の涙をぽろぽろと流し始めた。

あまりに突然の出来事に、私も状況を把握できず、「すみません、状況を教えていただけますか?」と声をかけた。彼女は嗚咽をこらえながら話し始めた。

「昨日から赤ちゃんの具合が悪くて、今朝病院を受診したの。医者は『心配なら大きな病院に入院した方がいい』って言ったの。夕方になって呼吸の様子がおかしくなって、救急車でここに来たら……もう、もう息をしていなかったの!」

彼女の腕の中の小さな命は、まるで眠っているかのようだった。医師による死亡診断もすでに終わり、医療としてできることはもう何もない。何か事情があるのか、赤ちゃんの父親の姿はなく、彼女はたったひとりだった。

この母親を、そのまま帰すわけにはいかない。医療的な「キュア」はできないが、必要な「魂のケア」がここから始まるのだ。もし赤ちゃんが生まれてすぐに亡くなった場合、ネーミングセレモニーを行う。親は、この子のために名前を用意していた。たとえ地上で生きる時間がなかったとしても、この子は確かに母親のお腹の中で存在し、名前を呼ばれる瞬間を待っていたのだ。

だから、チャプレンは親に赤ちゃんの名前を尋ね、その場にいる皆でその名前を声に出して呼ぶ。親にとって、名前はこの子に贈る最初で最大の贈り物である。その名を皆で声に出し、その子に届けるのだ。もし親がクリスチャンであれば、ここで洗礼式を行うこともある。教派や神学によって可否は分かれるが、生まれてすぐに亡くなった最愛の子が天国で安らげるように、また地上での生涯を終えたときに天国で再会できる希望を得るために、洗礼式が行われる。

また、メモリーメイキングと呼ばれる大切なケアもある。赤ちゃんの手形や足形を、特殊なフィルムを使って写し取り、目に見える形で残すのだ。そこに赤ちゃんの名前を書き、親には天国での再会を願うメッセージを添えてもらう。この上ない悲しみの時間、けれどもそれは親と子どもの大切な時間、とても尊い家族の時間なのだ。

もちろん、何をしてもこの絶望的な悲しみを癒すことも、和らげることもできない。それでも、なすべき魂のケアがそこにはあるのだ。

(後編につづく)

*個人情報保護のためエピソードはすべて再構成されています。

レベル1トラウマセンター銃撃事件(後編) 【関野和寛のチャプレン奮闘記】第23回

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