今日10月30日は上田敏の誕生日。「山のあなたの空遠く『幸(さいはひ)』住むと人のいふ」、「神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し」など、人口に膾炙(かいしゃ)した訳詩の名人です。
叔母の上田悌子は、津田梅子などと共に米国に渡った日本初の女子留学生で、親族も学者が多いという環境から、少年の頃から聖書を熟読していました。13歳のときに明治元訳の新旧約全巻が完成しましたが、その後、「全く国文の修養をおこたれる十数年前に於(おい)てよくもかかる雅馴の文をなししかと驚嘆せしむ」、「筆路頗(すこぶ)る雅健なり」とこの聖書を絶賛しています。
第一高等中学校時代には、校友会雑誌に「春の夕に基督を憶ふ」を載せ、処女作は評伝『耶蘇』。大浦天主堂で隠れキリシタンと出会ったプティジャン神父の『聖教日課』も翻訳し、自らも「踏絵」を作詩しています。
不思議なる御名にこそあれ、
イエスス・キリストス、
かみのみこ、よの人のすくひ、
げにいきがみよ。
始なり、終なり。
島崎藤村の長編小説『春』には「福富」という友人として登場し、「ルナンの基督伝を連中の間に紹介した」と書かれています。