全世界のカトリック教会で性的虐待の通報が義務化 教皇フランシスコ、自発教令を発表

 

教皇フランシスコは9日、自発教令「ヴォス・エスティス・ルクス・ムンディ(あなたがたは世の光)」を発表した。「バチカン・ニュース」によると、この教令は、カトリック教会内での性的虐待を知った場合、聖職者や修道者が通報することを義務づけるもので、全世界の司教と修道会総長がその対応について説明責任を負う。また、全世界のすべての教区で、信徒が通報するためにアクセスしやすい制度が整えられることになる。施行は6月1日から。

今年5月7日に北マケドニアを訪問した教皇フランシスコ(写真:北マケドニア政府)

この教令は次のように書き出されている。

「『あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない』(マタイ5:14)。私たちの主イエス・キリストはすべての信者を、美徳と誠実さと聖(きよ)さにおいて、世を照らす模範となるよう招いています」

聖職者や修道者による性的虐待、また虐待の調査に介入して妨害したり、ごまかして調べようとしなかったりする司教や修道会総長の不誠実な対応や怠慢などを根絶するのが、この教令の目的だ。

「性的虐待という犯罪は、私たちの主を侮辱し、被害者に身体的・精神的・霊的ダメージを与え、信者の共同体を傷つけるものです」と教皇は述べ、「司教には、これらの犯罪を防止する特別な責任があります」という。

これは、聖職者による性的虐待が各国で明らかになったことを受け、今年2月にバチカンで開催された「教会における未成年者の保護」についての全世界司教協議会会長会議の成果の一つとして、カトリック教会全体に適用される。

具体的な指示は次のとおり。

●通報のための事務局をすべての教区に置く

聖職者による性的虐待、児童ポルノの利用、虐待の隠ぺいについて通報を受け付けるための常設で利用しやすいシステムを各司教区に一つか二つ、2020年6月までに設置する。虐待を受けた人が誰でも、地元の教会に頼ることができ、安心して受け入れられ、報復から守られ、被害者の通報は最大の真剣さで取り扱われる。

●通報する義務

すべての聖職者や修道者は、自分が気づいた虐待に関するすべての情報(対応の怠慢や隠ぺいも含まれる)を直ちに通報する義務がある。これまでは個人の良心にかかっていたが、これからは普遍的な法的指針となる。この義務を負うのは聖職者と修道者だが、すべての信徒に対しても、虐待やハラスメントを通報するよう奨励されている。

●児童虐待に限定されない

子どもや弱い立場の人だけでなく、権力を利用した性的虐待やハラスメントも取り扱う。聖職者による女子修道者への暴力や、神学生や志願者へのハラスメントも含まれる。

●隠ぺいについて

「行政上か刑法上かにかかわらず、当局による取り調べや、教会法に基づいた調査を妨害したり回避したりすることを意図した対応や怠慢」を「隠ぺい」と定義した。教会において特定の責任を担う立場にありながら、虐待を追及するのではなく隠ぺいし、被害者ではなく違反者を保護した人に適用される。

●弱い人々の保護

18歳未満の未成年者と弱い人々(病弱な人、身体的・精神的障がい者、自由を奪われて犯罪行為に抵抗する能力を制限された人など)を守ることが重要。

●各国の法律の尊重

この通報の義務は、各国の法律で定められた通報の義務を阻害したり変更したりするものではない。

●被害者と通報者の保護

虐待の通報者が、偏見を持たれたり、報復を受けたり、差別されたりすることがあってはならない。また、過去に沈黙を守るように言われてきた被害者も、そのような義務はない。一方、「ゆるしの秘跡」で被害者が告白した罪の内容を秘匿(ひとく)することは絶対であり、この法によって影響を受けることはない。また、被害者とその家族は尊厳と敬意をもって対応されなければならず、適切な霊的・医学的・心理的な援助を受ける必要がある。

●司教の調査

司教や枢機卿、修道会総長、そして教会を率いるすべての者の調査について、この教令は規定している。自身が性的虐待を働いたということだけでなく、そうした行為を隠ぺいしたとして訴えられた場合や、虐待を知っていて、対応する責任があるにもかかわらず、追及しなかったと非難されている場合にも適用される。

●大司教の役割

予備調査について、訴えられたのが司教である場合、各国の首都にいる大司教が、教皇から委任を受けて調査する役割が新たに定められた。

●一般信徒の関与

首都の大司教は調査のため、個人のニーズに従って、(一般信徒によって提供される協力を考慮に入れつつ)有資格者の助けを借りることができる。

●推定無罪の適用

調査対象者の「推定無罪」の原則も再確認された。告発は、正式な訴訟手続きが開始された場合にのみ通知される必要がある。

●調査の結論

犯罪に対する罰則は変更されないが、通報と予備調査の手続きが確立された。調査が終わると、首都の大司教はその結果をバチカンの担当部署に送ってその任務は完了する。その後、特定の事件のための法律に従い、すでにある教会法の規範に基づいて処理され、予備調査の結果をもとに、聖座は直ちに、調査中の人物に予防的・制限的措置をとることができる。

教皇はこの教令の冒頭で次のように述べている。「このようなことを二度と起こさせないようにするためには、継続的で深い回心が必要です。それは、教会のすべての人が関与する具体的かつ効果的な行動によって証明されるのです」

雑賀 信行

雑賀 信行

カトリック八王子教会(東京都八王子市)会員。日本同盟基督教団・西大寺キリスト教会(岡山市)で受洗。1965年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。90年代、いのちのことば社で「いのちのことば」「百万人の福音」の編集責任者を務め、新教出版社を経て、雜賀編集工房として独立。

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